240メートルの誤算5【佐野玲於】

彼女の特権 ページ30

.



それから1週間、平行線のまま時間が流れた。
なにも変わらない。

Aはずっと家にいてくれるし
俺が連絡無しになかなか帰らなかったら、わんわん泣いて顔を青ざめる。
それを見ると安心するんだよ
あーよかった
こいつ、ちゃんと俺のこと好きなんだ って。

それにAはまだ、俺とさくらちゃんの仲を疑ってる。
俺が風呂入ってるあいだに、携帯勝手に見てることももちろん知ってるけど
でも、そういう全部がAの愛情だと思うと、なんかすげー愛おしく感じちゃって。


相変わらず寝室に来ようとしない
些細なことで大泣きする
メシだって全然食わなくなった
仕事もしてない。生気もない。
ここまで落ちるほど、さくらちゃんの存在がAのトラウマになってるってことを、俺は心底嬉しく思ってた。

もう誰も欲しがらないでしょ
こんなボロボロの女のコ





「どうしたの、レディースなんか見て。」


知り合いのアパレルショップ
仕事の後メンさんと顔出しに来たら、目に止まった。
マネキンに着せてある、シンプルなワンピース。


「…新作？」
「え？うん。そうだけど…あ、彼女にプレゼント？」
「……俺仕事が彼女なんで。」
「はいはい。笑」
「…色ってこれだけ？」
「いや、モカとアイボリーとボルドーもある。」
「……ボルドー見せて。あとモカも。」


すぐに持ってきてもらった、ボルドーとモカ。
顔を思い浮かべながら、吟味した。
ボルドー似合うだろうなあ
でもモカの方がアウターと合わせやすいか
でもモカってあいつにはちょっと大人っぽい？
ボルドーのほうがかわいくね？
あ、今の髪色からして絶対ボルドーだわ

頭の中でそんなこと考えてると
メンさんが俺を見ながら笑ってた。


「…なんだよ。」
「いや自分の決める時より真剣じゃん。」
「……うるせえなあ。」


言ってる途中、メンさんの背後にいい感じのアウターが見えて。
手に取ろうと近寄ったら、ぶっ叩かれると勘違いしたメンさんがすげえビクついてた。

笑いながら手に取る、黒のアウター。
緩めのウエストマークコート。
色もいいじゃん。ワンピースにぴったり。


「めっちゃよくないっすかコレ。」
「うん、合ってる。」
「ね。」
「ジェネのオシャレ番長にコーディネートして貰えるのめちゃくちゃいいな。」
「彼女の特権ってやつ。」


ついでに靴とバッグも購入し
完全なる全身コーディネートが完成。
はやく見せたいなって、はやる気持ちでタクシーに乗り込んだ。


.

行けない→←朝なんて

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す