240メートルの誤算5【佐野玲於】

じゅうぶん ページ3

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「肉まん食べるでしょ。」
「……食べる。」
「あ、これは？お好み焼き。」
「……食べる。」
「…ふ、ねえ、なんでそんな大人しいの？」


Aと再会して、30分が経った。
暫く玄関でずーっと抱きしめあって、そのまま寝ちゃいそうになるくらいの安堵感に笑っちゃって。
4ヶ月ぶりのAの部屋
懐かしい匂い、ソファーの固さ。
そういう全部に浸ってたら、Aのお腹が鳴った。

それで思い出す。
コンビニで買い物したんじゃん。
リュックから買い物袋引っ張り出して、ソファーにひっついて座った。

それなのにA、全然俺のこと見ないし
もちろん目も合わせてくれない。


「…べつにおとなしくないよ。」
「声ちっちゃくて聞こえないんすけど。」
「……ごめん…」
「……え、なに？…今さらやっぱ無しとかダメだよ、俺今日帰んないよ。」


言いながら、俯いた顔を覗き込む。
一瞬だけ目合った。
でもすぐ逸らして、今度は両手で顔覆っちゃうし。
えぇ…ほんとなんなの…？
冷や汗が出てくる。こいつはほんとに…


「……Aさーん。」
「…違うの、ごめん、ごめんね。」
「…なにがごめん？」
「……なんかね、あの…」
「…ん？」
「……久しぶりに会ったから、ちょっと恥ずかしいだけ。」


小さすぎる声で、そう呟いた。
え、って 今度は違う意味で固まる。
待って待って、いやそれはさすがに可愛すぎる。
嘘でしょ？
お前そんなこと言えちゃうの？

にやにや止まんなくて、我慢できずにまた抱き寄せた。
もうずっとこうしてたい。

A、肉まん潰れるとか言って俺のことぐいぐい押してくるけど、もうそんなのどうでもよくて
結局、満足して身体離したら、肉まんほんとに潰れてた。
それ見てふたりで笑った。



ローテーブルの上には、俺があげた自由の女神が置かれてた。
Aがすげえ大事そうに見つめてるから
こいつが俺のこと好きなのってほんとなんだ、なんて、ここで実感。
ちょっと、つーか、かなり泣きそうだった。


ふたりでアイス食べながら
ぼおっとテレビ見て。
でも俺は、アイスもテレビもどうでもいい
横にAがいるってことだけで、もうじゅうぶん。


「日付け変わっちゃったね。」


Aが呟いた。


「…うん。」
「…玲於くんあのね、言いたいこと、たくさんあって、」
「…うん。」
「…たくさんあるから、上手く言えないかもしれないけど、」
「……聞くよ全部。」


言いながら、手を繋ぐ。
Aは安心したように少し笑った。


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