240メートルの誤算5【佐野玲於】

強く ページ2

.



Aのアパートの近く
公園の隣にあるコンビニに入った。
ホイップたっぷり入ったシュークリーム
これ、A好きかな。
あとは肉まんでしょ、アイスも買ってこ。

久々に、誰かのことを思い浮かべながら買い物をした。
箸2膳つけてくださいって言うのが、嬉しかった。


気持ちの整理つけてるうちに、時間はどんどん過ぎていって
気付けばもう23時。
そろそろ行かなきゃまずいなって、昼間と同じ、アパートの階段を登る。

一番奥の部屋
あのドアの向こうに、Aがいる。
インターホン押す前にライン開いて
さくらちゃんとのトーク内容を削除した。
べつに大した会話してないけどさ
やっぱなんかこう、気持ち的に。


大きく深呼吸をする。
4ヶ月ぶりに会う、A
別人みたいになってたらどうしよ
良くも悪くも、変わってたら。

一抹の不安を抱えながら、インターホンを押した。

色々遅くなってごめん
だいすきだよ
それだけはちゃんと言おう。
顔見たらすぐ言おう。

決めてたのに


勢いよく開いたドアの向こう
立ってたのは、随分泣いたのか、目腫らして 眉毛ハの字に下がってる、A。
4ヶ月ぶりに会うAは、何も、1ミリだって変わっていなかった。

涙いっぱい溜めたその瞳が、俺を真っ直ぐ見つめてて
その中に俺が映ってることが、嬉しくて


「…やっぱ泣いてんじゃん、目腫れてるよ。」


言いながら、抱きしめた。
その瞬間、ああコレだって身体が思い出す。
この丸っこい柔らかい肌
赤ちゃんみたいな匂い
ちっちゃい耳に、華奢な肩。

すきだよ、すきだよ
やっぱり俺にぴったり合うのって、お前しかいないんだよ。
バカだな俺は
そんなの、出会った時から分かってたことなのに。


「……泣いてない。」
「……ぶさいくだよ。」
「……いいよ。」
「…うん、いいよ、ぶさいくでもなんでも。」


愛しくてたまらなくて、一生このままでいたいと思った。
もう会えないかと思ってたから
Aは俺のことなんて、とうに忘れてると思ってたから
ここでこうして一緒にいられることが幸せだった。
なんかもう、苦しくなるくらいに。


ドアが閉まって、ふたりだけになる。
Aの心臓の音が直接伝わってきた。
でももっと近くで感じたくて、これ以上無いくらい 身体をひっつける。
潰しちゃうんじゃないかと思って、怖かった。
それくらい、強く。


俺の頭の中にはもう、Aしかいなかった。
嘘なんかじゃない。
誰の面影も浮かばない。
ただ、Aだけ。


.

じゅうぶん→←戻れない

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す