240メートルの誤算4【佐野玲於】

自問自答 ページ3

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罪悪感はあったけど、結局、そのまま放置することにした。
幸いにもあれから何か新しいメッセージが来るわけでもなく。
そのへん一応心得てんだなあとか、上から目線で思った。
芸能人と付き合うの慣れてるって言ってたけど
確かにそんな感じ。実際会っての会話はグイグイくるけど、ラインだと踏み入ってこない。



21時を過ぎた。
ようやくロケが終わり、プロデューサーやスタッフに挨拶してから、車に戻る。
隣に座った涼太くんの横顔、なんかめちゃくちゃイケメンで。

「…何食ったらそんな顔になれんの？」
「は？笑」
「顔ちっせぇ。」
「いやいや変わんないでしょ。」
「変わるって。前彼女にも言われたし。涼太くんと並んでる写真見せたとき、顔でかって。」
「ふは、マジ？」

けらけら笑う涼太くん。
…あ、やべ、もう彼女じゃないんだった。
え、元カノ…？
なんかイヤな響きだな。元カノって。
学生のときからまあ何人かと付き合ってきたけど
そういう元カノと、同じくくりになんの？A。
あの3ヶ月で別れたカリンちゃんと一緒なの？

俺は正直、まだ全然Aと別れたっていう実感がなくて
だって、泣けてない。
別れてから一度も泣いてない。
泣きそうになることは何度もあったけど、でも泣けない。

泣けたら、楽になるのかな
ちゃんと自分の中で諦めつけて、割り切って
…でもなあ

キーケースについてる、合鍵。
これ持ってる限り、俺は多分、忘れられない。
良い意味でも悪い意味でも
これ、持ってる限り。


車の中はまだ暖房が効いていなくて
手が凍りそうなくらい寒かった。
付き合ってはじめてのクリスマスのとき
Aから貰った手袋、あれ、どこやったかな
…もうわかんねえや

俺が涼太くんみたいにカッコよかったら
Aは、ずっと隣にいてくれた？
俺がこんな性格じゃなかったら
俺が、この仕事じゃなかったら
俺が、

…けど、こんな俺とAだから
きっと出会えたんだよ。
それだけは紛れもない事実。
でもこんな情けない自分になるくらいなら、いっそ出会わないほうがよかったかな。
自問自答。
答えなんて出ないこと、わかってるくせに。



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