240メートルの誤算4【佐野玲於】

無力で ページ16

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翌朝
身体が痛くて目を覚ます。
ソファーにもたれかかるみたいにして寝てた。
背中には昨日俺がさくらちゃんに掛けた毛布が掛けられていて

「おはよう、玲於くん。」

そんな声に顔をあげる。
キッチンに、さくらちゃんが立ってた。

「…おはよ…」
「って言っても、まだ5時だけどね。」
「え、5時？」
「うん。お互い熟睡できなかったね、ごめんねほんと。」

あれ
俺どうしたんだっけ？昨日の夜…

…ああそっか
Aのこと思い出して号泣して、そのまま寝落ちしたのか。
確かあれ、3時半とかだった気がするんだけど。


「わたしもさっき起きてさ、朝ごはんでも作ろうかと思ってたら、冷蔵庫なんにも入ってなくて。笑」
「あー、ごめん。」
「コンビニ行ってこようか？仕事、何時から？」
「あ、6時半には出る。」
「そっか。うーん、どうする？朝ごはん。」
「俺はいいや。さくらちゃんもう帰る？帰るならタクシー代、」
「大丈夫大丈夫、わたしが勝手に寝ちゃったのが悪いし、ちゃんと自分で帰れる。」

じゃあとりあえずコーヒーだけ飲むかって
ふたりで淹れて、飲んだ。
さくらちゃんはもう元気になってて(空元気かもだけど)
いつもみたいに、愚痴こぼしながら朝のニュース見てる。


「…今日仕事？」
「うん。急いでシャワー浴びなきゃ。」
「大丈夫なの、昨日あんな大泣きしてたのに。」
「……その言葉、そのまま返す。」


天気予報のお姉さん
今日は一日晴れだって言ってた。
でも週末は雨だって
洗濯物は、今のうちにって。


「……まだ元カノが忘れられない？」
「……。」
「…なにが苦しい？」
「……起きてたのかよ。」
「…なんとなくね。」
「……別れてから初めて泣けた。もう3ヶ月以上も経ってんのにさ、ほんとバカだよね、俺。」
「…バカだなあ。…わたしがちゃんと起きてるときに泣いてくれたら、慰めてあげるのに。」


ぽんぽんって、俺の頭に手を伸ばしたさくらちゃん。
やめろよ、って
振り解こうとしたその手は、そのまま俺を引き寄せた。

小さな女の子の腕に、無力で抱きとめられる俺。
…コーヒーが、こぼれそうだった。


「……昨日は、泣いてるわたしのそばにいてくれて、ありがとう。」
「……。」
「ほんとに嬉しかったんだよ。だから、わたしも同じことしたい。下心とか無いよ。友達だから。」


Aの身体は、もうすこし柔らかかったな。
あいつはもっと丸っこくて、角がなかった。

あの感覚が、俺はたまらなく好きだったんだ。


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