240メートルの誤算3【佐野玲於】

情けない ページ36

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「…ただその、友達…てか、メンバーがさ、女のコ連れてきて、だからお前からしたら 怪しいって思っちゃったかも。」
「…そうなんだ。」
「…うん。…こういう仕事してるからさ、まあ、Aも不安になること多いかもしんないけど、…でも、お前が心配するようなことは何もないから。」


俺がいま言わなきゃいけないこと
ちゃんと言ったけど、Aは何も答えない。
沈黙が怖くて、矢継ぎ早に話しかけた。


「でも、お前のことはわかんないじゃん、俺。」
「……。」
「…Aがいま何してるか、とか、誰といるか、とか…俺は何もわかんないから、…今日みたいに突然呼び出されたら、めっちゃビビるし、寿命縮む。」
「…どういうこと？」
「……なんかあったのかと思った。…それか、またしょうもない別れ話されるかなって。」


…ああやばい、何言ってんだ俺。
それ、俺が言っちゃダメだろ。

少しの沈黙のあと、Aは小さな声で 俺の名前を呼んだ。
俯いたまま返事する。
もう、頭がおかしくなりそうだった。
何を言ってもダメなんだ。
もう無理かもしれない。
…いや、無理って？別れるってこと？
やだよ、なんでだよ。Aは俺の彼女だよ
誰がAに、勝手に

「……玲於くんが何考えてるか、わかんないよ…」
「…俺だってわかんねえよ。…でも、なんか変だよお前。ほんとに……違うよね？べつに、他の男にうつつ抜かしてるとか、そんなんじゃないよね？」

感情のまま聞いたそんな問いに
Aはまた、何も答えてくれなくて

思わず見たその瞳は、揺れていた。
動揺してる。

「……ねえほんとにやめてくんない、その顔。」
「……何もないよ。」
「…嘘下手すぎでしょ。顔に出てるって。」
「……。」
「待って、マジなの？」
「…そんなんじゃない、ほんとなの。」
「……。」
「…玲於くん、」


…ああ、もう、いい。
もういいよ。
ほんとなんだ、お前。
ほんとに誰かと、お前は


別れたくないって拒否してるのは自分のくせに
俺ってほんとに自己中だな。
カッコわりい、情けない。

少しの隙間もないくらいに抱きしめても
息できなくなるくらいキスしても
Aがいま他の誰かのことを考えてるかもって思ったら、全然満足できなかった。



夜中
Aの寝顔を見ながら、ベッドの中で手を繋いだ。
小さくて柔らかい手。
このまま離れなければいいのになあって、夢の中でも思ってた。


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