240メートルの誤算3【佐野玲於】

不安なの？ ページ35

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「…ねえ、A。」
「な、なに。」
「…いやいや、なにはこっちのセリフでしょ。」
「え？」
「なんなの。突然。」
「……。」
「……や、そうじゃなくて、その…お前が会いたいとか言うの、珍しすぎるから。」
「……ほんとに何もないの。ちょっと顔見たかっただけ。」
「……。」
「…楽しかった？でも4日間じゃ、あんまり回れないよね。」

…なんだよそれ。
何もない？そんなわけないだろ。
じゃあなんでそんな変な顔してんだよ
全部わかるよ
もう4年も一緒にいんだから。

声も顔も雰囲気もいつもと違う。
違うこと考えてるし、それ、俺に隠してる。
もう、帰したくなかった。
ずっとここに、縛り付けておきたかった。

そのあとはもう、プライドもクソも無い。
泊まってけ、やら
携帯見して、やら
必死すぎてダサいし、Aが嫌がってるの分かるのに。

でも、ライン見ても 特定の誰かと連絡を取ってる様子はなかった。
名前変えてるのかもって思ったけど、それも無い。
電話帳も見た。メールもみた。メッセージも見た。
でも、何も無い。

吉川くんとはたぶん、ライン交換してるはず。
夜電話してたとか言ってたし
でも検索しても見つかんないし、ASNSほとんどしないから、インスタとかも無い。

…なんで？
こいつ絶対、誰かと繋がってるはずなのに。
俺、吉川くんだろって勝手に思ってたけど。

…もしかして俺の早とちり？
ほんとは何もなかったり…いやけど、だとしたら今日わざわざ会いに来た理由は？

いろんな仮説が頭を巡って
そのときケントの言葉も思い出した。
コミュニケーションが足りないって
俺が全然自分の気持ちを伝えてないって。


ちらって、Aを見た。
相変わらず変な顔。
眉毛ハの字にして、唇結んで。
…不安なの？

「…あのさ、A、」

一旦冷静になって、話しかけた。

「……ん？」
「……この前のことだけど。」
「…この前って？」
「…5日前、とか。LA行く前日に、お前んちに顔見に行ったとき。……べつに俺、女のコと遊んでたわけじゃないよ。」

途中、心が折れそうになる。
べつにこいつ、俺のこと好きじゃないのに
こんなこと言ったって、何も変わらないかもしれないのに。

それでも微かな希望に、必死に食らいつくしかなかった。
ケントが言ってた、自分の気持ちを伝えるって
俺が思ってること、探り探り。

Aはじっと俺の横顔を見てた。
どうしてもその目だけは、見れなかった。


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