240メートルの誤算3【佐野玲於】

意味ない ページ17

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「重た…」
「…ありえねえ…」
「なにが？」
「…なにが？いやいや、妬くでしょ、普通に。」
「…妬く？ヤキモチ？」
「……うざいっすよ。」
「え、ヤキモチ？…う、うれしい…」
「ねえ俺本気なんだけど。」

むぎゅってほっぺた摘むと
また嬉しそうにへらへら笑ってる。
…ダメだこいつ。

「Aちゃん聞いて。」
「え？」
「…あそこでバイトすんのやめてくれる？」
「えっ、うん、わかった。やめる！すぐやめる。」
「ほんとに？」
「だって元から、玲於くんに会いたくてバイトしてただけだもん。理由なくなった！」

やめるね、ってまた呟きながら、満面の笑み。
ええ、なにそれ
かわいすぎるでしょ、さすがに。
俺のこと好きなのは知ってるけど
まさかここまでとは。

なんでも言うこと聞いちゃうのかな。
一緒に住もって言ったら、うんって言う？
結婚しよって言ったら、するって言う？


「……今何時？」
「…22時すぎ。」
「……あー、明日早いんだわ。今日はもう帰んなきゃな。」
「……明日何時なの？」
「7時に事務所。」
「…わたし5時に起きる！」
「…5時に？」
「うん。頑張る。」
「…じゃあ泊まってこ。」
「やった。」

そう言って、ぎゅうって抱きついてくるAちゃん。
そういえばこの前言ってたな。
玲於くんがいなきゃ眠れなくなったって。

俺がいないと、生きていけないんでしょ。
何もできないんでしょ。
じゃあいいよ、俺もAちゃんのために生きることにする。

もっとデカくなんなきゃ。
仕事も頑張って、弱くて小さいAちゃんのために、俺が強くなって
Aちゃんが安心して俺を頼れるように。
外からも内からも、このコを守りたいから。


「……Aちゃん、」
「…うん。」
「……好きだよ。」
「……わたしも大好き。」


鼻同士が触れて、キスしたあと
ゆっくり開いたAちゃんの瞼。
好きって言いながら抱きついてくる。
うん、分かってる、知ってる。
それは、知ってるんだ。


でも、
長く付き合ってようやく知ったこと、たくさんあった。
Aは俺が大きくなることなんて望んでなかったし、俺の仕事だって、全然好きじゃなかった。
俺は自慢の彼氏なんかじゃなかった。

飽き性で、洋服も携帯ケースも靴も、すぐ変えちゃうような性格。
それはぼんやり気付いてたけど
でも、俺までその対象になるなんて、この時は知らなかったよ。


どんなに有名になって沢山のファンがいたって
好きな人に認めてもらわなきゃ、意味ないのに。

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