240メートルの誤算【佐野玲於】

ふたりで ページ44

.


「料理来るまでとりあえずこれ飲んでください！」

そう言ってテーブルに置かれる
いろんな種類のソフトドリンク。
淳平くんが連れてきてくれたのは、駅前にあるファミレスで
着いて早々ウエイトレスのお姉さんに、これとこれとこれと！って、山のようなオーダー。
ドリンクバーも頼んで、わざわざ持ってきてくれた。

「…ありがとう。」
「ファミレスでほんとすみません。」
「全然、…淳平くんも好きなの頼んでね。」

…お金、持ってたっけ。
さすがに奢らせるわけにはいかないし
なにより、もう二度と会わないって思ってたひとだから、なんていうか 恩を作るわけには…

「…なんで食べてないんですか。」
「…仕事が立て込んでて。」
「…朝は？」

…朝は…

「…色々あって。」
「……心配です。Aさん、体弱そうだから。」
「…意外と強いんだよ。」
「……。」

淳平くん、浮かない顔で俯いてしまった。
どうしようって胸が痛くなったとき
ちょうど、お待たせしましたって料理が置かれて

「…食べよっか。」
「…はい。Aさん、好きなもの好きなだけ食べてください。」
「……ありがとう。」

男の人とこうやってふたりでご飯を食べたのは
たぶん、吉川くんが最後。
玲於くんとはこんなところ来れないし
手を繋いで外を歩くことも、ふたりで原宿や渋谷にお買い物に出たり
ずっと気になってるアイスクリームショップに行くこともできないから
いや、べつに、それが不満って話じゃなくて
なんか緊張しちゃうなあって。

「デザート食べますか？」
「デザート？」
「はい。」
「…気が早いよ。笑」
「あ、そっか。」
「あとでね。」

言うと、はいって キラキラの笑顔
久しぶりに見た。
忘れかけてたけど、こんなにかわいかったっけ。
また懐かしい気持ちになる。
…なんだろう、これ。


そのあと淳平くんは、重い空気にならないように
ずっと楽しそうに喋ってくれた。
そのおかげでわたしもだんだん元気が出てきて
大好きなナポリタンを食べながらふと顔を上げたら
淳平くん、頬杖つきながら、わたしのこと優しそうに見つめてた。

「…そんなに見られたら食べにくいよ。」
「すみません。笑 …でもなんか、嬉しいっす、元気になってくれたみたいで。」

俺も食べようって笑ったその姿に
胸がぎゅって痛くなる。

誰かにこんなに優しくされたの、初めてかもしれない。

.

赤信号→←待ち伏せ

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す