240メートルの誤算【佐野玲於】

懐かしい ページ25

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そのあと我に返り
振り向くと、みんなが不思議そうな目でわたしたちを見てた。
慌てて立ち上がり、こちらです、なんて 他人行儀な態度を出してしまう。

え って困惑した様子の、浅井淳平くん
担当のひとに対応をお願いして、小走りで裏の事務室に戻った。

やばい、やばい
うそでしょ、こんな偶然ある？
だいたい、この前はわたしがおでこぶつけたのに
今度は彼が？
え、うそでしょ？
わたし、少女漫画の読みすぎで 夢でも見てるのかな。

デスクで頭を抱えていたら
先輩に、Aちゃんって声かけられて

「お知り合いだったの？浅井さん。」
「…お知り合い…って、言っていいのか…」
「え？笑」
「…前に一度話したことがあるだけで。」
「あっそうなんだ。」
「…もう帰られましたか？」
「うん、契約書受け取るだけだったからね。よかったー、間に合ってくれて。」

…帰ったかあ。
ほっとした気持ちと、もう少し話したかった気持ちが、半々くらい。
気を取り直して施錠をしに行き、コートを羽織ってタイムカードを押した。

裏口のドア
出たら、冷たい風が頬を掠めて
はぁーって両手に息を吹きかける。

「お姉さん！」

そのとき、聞こえた声
びっくりして顔を上げたら、すぐそばのバス停
そのベンチに座ってる、浅井淳平くんがいた。

「もうお仕事終わるかなって思って。すみません、待ち伏せしちゃいました。」

…待ち伏せしてたんだ。
にこにこしながらわたしのところへ駆け寄ってきて
キラキラしたまま、また口を開く。

「びっくりしました。お姉さん、大学生だって思ってたから。」
「え、わたしが？大学生？」
「はい。俺今2年なんすけど、3年生くらいかなって。笑」
「やだ、そんな若作りしてるかな、わたし。」
「違います違います！純粋にその、まあ、そういう感じで。」

どういう感じ？
聞こうと思ったけど、やめといた。

「あっ、えっと…電車ですか？」
「はい。電車です。」
「たぶん最寄り一緒っすよね。」
「…新井塚？」
「あ、一緒です。笑」

もう帰りますか？
はい
一緒にいいですか？
うん

そんな会話の後、ふたりで並んで歩く。
大学2年生かあ
てことは、3歳年下？
かわいいけど、顔すごく綺麗だな。
隣を歩くの、なんだか気が引けちゃう。

「…もう漫画飽きたんですか？」
「え？」
「だって、お姉さんあれ以来お店来ないから。」

そう呟いた彼の横顔が、少し懐かしく感じた。
…なんで？

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