藤の花を添えて (ページ14)

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｢手、離してやってください。痛がってます｣
｢ … あ？｣
｢そいつが痛がってる顔、見えないんすか｣

口を開いたのは汐恩だった。瑠姫の口元がぴくっと反応する。

乱暴に手を離した瑠姫は、一直線に汐恩と翔也の方へ歩いていく。

一歩退く翔也は震えていた。気づいた汐恩は、翔也を守るように前へ出る。

冷静な口ぶりのはずなのに、反抗的な目をしている汐恩。瑠姫は、そんな汐恩の目の前で止まると蔑むような視線で二人を見た。

｢そもそもお前らがここにいることが原因なんだ！さっさとここから出ていけ！｣
『お兄様、もうやめて … 』

Aの声は、瑠姫には届かない。

その怒りは留まることを知らず、ヒートアップしていく。

｢お前らのような人間がAに近づくなんてありえない！身の程を知れ！｣

瑠姫の拳が振りかざされる。汐恩は覚悟をして目を瞑った。

『いい加減にしてッ！』
｢ … っ、A … ！｣

Aの意思とは関係なく、彼女の身体は勝手に動いた。

汐恩と翔也を守るように、両手を広げ瑠姫に立ち向かうA。

その様子に驚いたのか、瑠姫はぴたりと動きを止めた。

｢A、避けなさい｣
『いやだ。お願いだから話を聞いて』
｢何を聞いても無駄だ、大体Aが関わっていい奴らじゃない。俺らとは違うんだよ。｣
『それを決めるのは私だよ、お兄様には関係ない。』

今まで、瑠姫の言うことにはひとつ返事で従っていたA。けれど初めて、こうして自分の意思で瑠姫に反抗したAは、今まで感じたことのない感覚をおぼえた。

まるで、飛び回ることを許さず縛り付けていた鎖が、ひとつひとつポロポロと落ちていくような感じ。

ただ、必死に二人を守りたいと思った。

初めて出会ったあの時、彼らを守ろうと思った。

Aは、自分には分からない何かに怯える汐恩と翔也を放ってはおけなかった。

ここに連れてきた瞬間から、二人のこの先の未来は自分に責任があって、それを背負う覚悟をした。

『この人達を、そうやって私達とは"違う"なんて言わないで。』
｢お前は何も知らないんだ｣
『今から知っていけばいいでしょう？お兄様、一度落ち着いて話をしよう』

Aの声は、震えていた。

それでも、意思だけはもう揺るぐことはなかった。