藤の花を添えて (ページ13)

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皿の上には何一つ残されていない。

満足とは言えないものの、ようやく今日食べ物にありつけた汐恩と翔也の顔色はここに来る前よりずっと良くなっていた。

お膳を片付けようと、Aは腰を上げる。

この後はどうしよう、と Aはふと考えた。

ここで寝るのなら、せめて衣服は着替えさせてあげたい。

けれど、さすがにAの手持ちには 2人が着れるようなものがない。

Aの頭の中には、選択肢は一つしかなかった。

『 … お兄様の、着物』

いくらAのお願いだからと言っても、さすがに理由を言わずに貸してくれるとは思えない。ならばやはり隙を見てバレないよう持ってくるしかないのだ。

しかし、生憎瑠姫は衣類の管理は自分で行っている。

正装や普段着るものに限らず、自分の身を包むものにこだわりのある瑠姫はきっと1着なくなってもすぐに気がつくだろう。

｢何険しい顔しとるん、やっぱり食いたかったんちゃうん｣
『え、違うよ！考え事！』

… よし、持ってこよう。

そう意を決したAはお膳を持つと、廊下へ出ようと襖に手をかけた。

『あっ … 』
｢A、これはどういうこと？｣

襖を引くと、そこには今いちばん会ってはいけない人物がいた。

｢そいつら、誰｣

瑠姫の視線はAへ背後に移る。

その視線を追いかけるようにAが振り向くと、そこには身を寄せ合ってこちらをじっと見つめる2人がいた。

それはまるで、Aと出会った時のように。

恐怖と警戒心でいっぱいの、敵を見る目。

｢おい、お前ら。どこの誰だ。｣
『お兄様、私が説明するから … ！』
｢A、申し訳ないけど今は黙ってて。
もう一度聞く、お前らは誰だ。｣

普段は聞くことのない凍りつくような瑠姫の低い声。

汐恩と翔也は、じり、と後ろへ下がる。

｢ … 元、身売り｣

口を開いたのは汐恩だった。
Aは目を見開いた。

｢身売り、だと … ？｣
｢陰間屋から逃げてきた。そしたらそいつに拾われた｣

汐恩はAを指さす。瑠姫はAの肩を掴んだ。

｢どうしてこんな奴らをここに連れてきた！？どんな危険な目に合うか分からないんだぞ！？｣
『ごめんなさいお兄様 … ！でもすごく優しい人達で、』
｢関係ない！今すぐ追い出せ！｣

瑠姫の指がギリギリと肩に食い込む。
Aは痛みに耐えるようぎゅっと唇を噛んだ。