【佐野万次郎】幻の副総長 (ページ44)

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今は、それだけで。ページ44

Aside

目を覚ますと、そこはもう院内で、見覚えのある顔が私の目に映った。マイキーとバジリンだった。上半身体を起こして二人を見る。二人はどこか苦しそうで、悲しそうな顔をして私を見ていた。

夢の中で、私はずっと抱きしめられてた。あの温もりをちゃんと覚えている。だからもう大丈夫だって、そう思ってた。けど、やっぱり無理だよね。大切な人の死なんて、そんな…直ぐに…受け入れられないよね。

『まんじろ、けいすけ…』

さっきあれほど泣いてきたはずなのに、止まらない少ししょっぱい液体が頬を伝う。二人は何も言わないで、ただ隣に居てくれた。今はそれだけで充分だった。

・

あれから一週間が経った。父の葬式も無事に終え、私は父方の祖父母の家へと引き取られることになった。もうマイキーとご近所さんでは無くなってしまうけど、あまり距離は変わらないので多分いつも通りにはなるのだろう。

そして休日である本日、私はマイキーの家に漫画読みに訪れていた。近くのテレビからは恋愛ドラマが流れており、暫くは漫画に集中していたが、ある言葉が聞こえたのをきっかけにめくるページの手を止めた。

『…ねぇ、マイキー』

「ん？」

『お父さんもお母さんも、最後は私に“愛してる”って言って死んでったんだ』

「…」

『私もいつか死ぬ時が来たら、誰かにそう言って死にたい』

特に深い意味は無かった。ただ、私もいつか子を授かり親になり、寿命か何かでこの世を去る時、その言葉を言ってあげられたらいいなと、純粋にそう思っただけ。しかし、マイキーはそれを深読みしすぎたのか、胡座をしたまま私の向かいに座り、頭を撫で始めた。

「死ぬ時とか、今はそんなこと考えんな。お前には俺がいる。泣きたかったら泣いていい。辛かったらいつだって抱きしめてやる」

『…』

「俺がお前の支えになってやる」

「だからもう安心だろ」とマイキーは笑った。私は微笑んで、「マイキー大好き！」とハグをして飛び込むと、そのまま胡座をしているマイキーの背中から倒れて行った。

ありがとう、マイキー。