深愛モラトリアム【2】 (ページ2)

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タクシーのドアが開く音
私は慌てて溢れてしまった涙を拭った

紫「出して下さい」

　『……え？…紫耀？』

あの時、確かについて行くと言ったのは
岸さんだったはずなのに
タクシーに乗り込んで来たのは紫耀だった

紫「ごめん、岸くんじゃなくて
　でも俺に行かせて」

　『………ありがとう』

…どうして？…なんて言葉を
口にしてしまいたくなったけれど
恐らく岸さんが気を遣って
紫耀が行くようにしてくれたんだ

だから、しつこく聞いてしまうと
紫耀の気が変わりタクシーを
降りてしまうんじゃないかと思ったから

私はそれ以上
何も言葉を付け加えることはしなかった

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暫くして辿り着いた
私が所属している事務所

中へと入るとマネージャーが
すぐに私を見つけてくれた

マ「あれ？…平野さん？」

　『紫耀は同じ施設で育ったんです』

マ「…そうだったんだ、知らなかった」

紫「俺が同席しても良いですか？」

　『一人では不安なので…』

マ「分かりました
　平野さん、宜しくお願いします』

紫「A、行こう」

　『…………うん』

マネージャーさんは
女性が待つ応接室に案内してくれると
紫耀に頭を下げ、来た道を戻って行った

私は気持ちが逸りすぐに
応接室のドアノブに手を掛けたけど
やっぱり怖くて目を閉じ深呼吸をする

紫「大丈夫？」

　『…会いたいはずなのに…怖くて』

紫「俺が付いてるから」

　『………え？』

紫「何を聞かされても
　隣に俺が居ることを忘れないで」

　『……紫耀』

手を掛けたままのドアノブと一緒に
紫耀は私の手を包み込むように握った

「行くよ」耳元で紫耀の声を聞いたら
彼は私の手ごとドアノブを回したんだ

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