第７８話 ページ36
第７８話
コンコンッとノック音がしたと思えば、部屋に入ってきたのは白衣を着た医者と看護師が一人。初めて見るお医者さんだ…若い、男の人。
「やあ、はじめまして」と医者が私の側にくる。
「今日から君の担当は僕になったから、今日は軽い顔合わせで来たんだ。僕になら何でも話してくれて構わないよ、これからよろしくね」
「…………はい」
少し、胡散臭そうな笑みをする人。私は今までそういう作り物の笑顔とかを見抜けない人間だった。だから綾瀬さんにも騙された訳だし。
でもあの日から妙に他人の顔色に敏感になって、特に作り笑いなんかは簡単に見抜けるようになった。だって雰囲気が同じなんだもん、今まで私の周りにいた人達と。
友達にハブられたくないから。自分は一人になりたくないから。だから面白くない事でも器用に笑って無難にやり過ごす…そういう作り物独特の笑顔。
この医者も、同じ顔をしている。
「これでも僕は今まで何人もの患者さんを相手にしてきたから、君も必ず僕が…」とニコニコしながら言っていた。その自信はどこから来るんだろう。
「だから……」
「っ…！」
僕に任せてよ、と私の肩に医者が手を置く。ふわりと微かに鼻をかすめた煙草の匂い。もしかしてさっき吸ってきたばかりなのか、手に煙草の匂いが残っているんだろう。
その匂いに、嫌な記憶が蘇る。
血の気がサァーと引いていった。
あの時と同じ匂いだ。ボーリング場の奥の部屋を明けたそこは、煙草の匂いが充満していて…。頭が回らなくなり胸が苦しくて息苦しい。
今は病院に居るはずなのに、ケタケタと笑う大学生達の声が聞こえる気がした。
黙り込んでしまったから「どうしたんだい？」と医者が私の顔を覗き込んだ。その顔に喉がキュッと引き締る。あの時もそうだ…煙草の匂い、そして目の前には知らない男の人。
その人達に私は何度も何度も何度も…。
「顔色が悪いけど…大丈夫？」
「っ……！！！」
医者が私の肩に置いた手にグッと力を入れた。途端、私の頭が真っ白になりチリッ…とごく少量の炎が放出される。
医者は「熱っ…！？」と手を引っ込め、看護師が「先生っ、大丈夫ですか！？」と慌てて医者に駆け寄った。
わざとじゃない、わざとじゃないんだ。そう言いたいのに医者と看護師が怯えた顔で私を見ているのが目に入って何も言えなくなった。
きっと私がまた暴走すると思ってるんだろう。
私は個性を解除しながらゆっくり目伏せた。
．
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1765人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ヒロアカ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
クロ - 凄く素敵でした✨私は今まで読んできた轟の夢小説の中で、この作品が一番大好きです!次の作品も楽しみにしています! (11月22日 16時) (
レス) @page47 id: 0a0119112e (このIDを非表示/違反報告)
あやぎり(プロフ) - 妙にリアルな感じがめちゃくちゃ好きです…！主様の文もとても惹かれるもので素敵でした！完結おめでとうございます！次の作品も楽しみにしております♡ (5月2日 20時) (レス) @page47 id: d40ddaf348 (このIDを非表示/違反報告)
CLOCHE(プロフ) - 次の作品を楽しみにして待っています…！ (2022年5月14日 21時) (レス) id: 1fbe654695 (このIDを非表示/違反報告)
CLOCHE(プロフ) - 私の中では兄弟恋愛がなかなか受け入れられないものなので普段は見ようとしないし、何なら兄弟恋愛かもって思った時点で見るのをやめようかと思いましたが、この作品はこれでおしまいじゃなくて続きを読んでみたいと思うほど面白かったです。 (2022年5月14日 21時) (レス) @page47 id: 1fbe654695 (このIDを非表示/違反報告)
るう - いぢめてたモブ達への復習ナシは流石に胸糞が残る (2021年9月7日 23時) (レス) id: 63584da8be (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：NAOKI
| 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/naoki-/
作成日時：2018年5月19日 23時
