その天才、恋愛初心者につき。【凪誠士郎】

44 ページ44

.
｢やる？やらない？｣


｢…やる！｣


声を弾ませるAに、少しだけ罪悪感を感じる。


絶対に勝てる自信があるのにこんなルールを提案するなんて。


性格悪いのかなぁ、俺。


｢どんなお願いにしよう｣


連敗したにも関わらずわくわくしてるA。


可愛いから勝たしてあげたいけど、今回はだめ。


愉快な背景の手前に、俺とAの選んだキャラが対峙する。


ふと気がつくと、コントローラーを握る手は汗ばんでいた。


｢今回は絶対勝つからね｣


｢うん、楽しみにしてる｣


3、2、1。


最初こそ意気込んでいたAも、残機が減るごとにもうやめて、と悲しい声を漏らす。


その度に勝たせたい気持ちが邪魔をしてきた。


だけど、このチャンスはもう逃がすまいと攻撃し続ける。


ダメージが蓄積したAに必殺技を決めると、残酷にも現れるGAME SETの文字。


｢俺の勝ちだね｣


｢誠士郎君、今までの本気じゃなかったでしょ｣


｢…ごめん｣


｢ここまでボコボコにされたら逆に気持ちいいよ｣


Aは完敗です、とコントローラーを机の上に置いた。


そして俺に体を向けると、いつもの優しい笑顔で言う。


｢誠士郎君のお願いをひとつ叶えましょう｣


その瞬間、いろんな気持ちが溢れてくる。


可愛い、一緒にいると楽しい、笑った顔が好き、優しいとこが好き。


違う、今言わなきゃいけない言葉は。


俺のお願いは、


｢恋人になってほしい｣

45→←43

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す