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「ただいま、サーシャ、今日の晩飯…、……あれ」
午後10時を回った頃、俺は閃ちゃんの"帰るの遅れる"のメッセージを見ていなくて、少しだけ不貞腐れて配信を始めていた。
普段なら防音室の扉に、配信中、と書かれたプレートを置いておくんだけど、今日は忘れてた。
だからか、今になって少し後悔してる。
「あ〜、クソ、今の行けたって〜」
「惜しい惜しい、もっかい行こ」
「じゃあ次俺先行きまーす」
>葛葉凡ミス多くて草
>イブ行け行け〜
>かなかなサポート上手いな
今は仲のいい叶とイブラヒムと一緒にゲームをしていた。
防音室だからと、大声で叫んで、笑って、悪態をついて、不貞腐れた気持ちが少し和らいでいたのに。
「よしよし、いい感じ!そこから……うわっ」
>お?
>どした葛葉
不意に肩を叩かれた。
振り返れば、ごめん。と言いたげな顔をした閃ちゃんがいた。
どうやら、プレートがなかったから、配信ではなく普通にゲームをしていたと勘違いしたらしい。
「何?あ、待って、ミュート」
そう言って、ミュートボタンにカーソルを合わせた。
「ごめん、配信のプレートなくて気付かなかった。」
「いいよ、なんかあった?」
>ミュート出来てない
>だれ?男?
「晩ご飯、食べてないよね、オムライス作ったよ」
「あ?まじ?あー、でも今配信…」
「いいよ、冷蔵庫入れとく」
「わり、ありがと。…あ、あとさ、明日なんも予定ないよな?」
「ないけど」
「明日で付き合って2年だから、どっか行こ」
>は?
>え?これ大丈夫なやつ?
>かなかなもイブも黙っちゃってる
「あれ、もうそんな経つ?じゃあどっか行こうか。計画サーシャ立ててくれるの?」
「いいよ、車出して」
「はいよ」
>え、付き合ってって、男と?
>これ聞いちゃまずいんじゃ…
「さてと、……ごめん、お待たせ〜。…え、何この空気」
俺の機嫌が良くなって配信画面に戻ると、叶とイブラヒムは黙っていて、コメント欄も不穏な空気が漂っていた。
この時の俺は、まだミュート出来てなかった事に気付いていなくて、叶が申し訳なさそうに言うまで、惚けた顔をしていた。
「…あの、葛葉」
「なに?」
「ミュート、出来てなかったよ」
「…え」
俺の首筋に、ひやり、汗が流れた。
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作者名:ヨッコラセ | 作成日時:2022年9月7日 11時