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Fside
「おかえり」
「ただいま」
玄関で出迎えると、北山は緩く笑った。
「ご飯完成させるから、お風呂入ってきな」
「…あんま、お腹空いてないかも」
「食べれるだけでいいから気にしないで」
北山は疲れていたら、逆にご飯を楽しみにするタイプだと思う。だから、また何か我慢してしまってないか不安になった。
「…どうしたの」
北山はお風呂を上がると、ソファへ横になった。
俺はご飯を用意する手を止めて、北山の元へと近づく。
「ううん。ふじがや、ごめんな」
「なにが?」
そっと頭を撫でると、北山は瞼を伏せる。
「気遣わせて…」
「そんなことないよ。会いたいから来てるもん。逆に疲れてるのに来てごめんね」
そう言うと、北山は俺を見つめて首を振った。
「ふじがや、」
「…ん?」
北山は、ゆっくり体を起こしてソファから身を下ろすと俺に抱き付いた。俺は無言で腕を回して背中を撫でる。
「北山、ちゃんとご飯食べてる?」
「うん…」
「うそつき」
言葉とは裏腹に、抱きしめる力を強くする。
すると北山は俺の肩に顔を埋めて、だって…と小さく呟いた。
「食べるより、会いたかった」
「会えばよかったのに」
「だって…会うと面倒なこと、言っちゃいそうで」
「…うん」
「現に、面倒なこともうしてるし…ずっと断っててごめん」
「断っただけでそんな申し訳なさそうにするなら、断らずに面倒なことしてくれたらいいよ」
北山も会いたいなら会えばいい。
会いたくないなら断ればいい。
だから、断って申し訳なさそうにする必要なんてないし
…それに。
「北山が言う面倒なことって、甘えてくれてるだけじゃん」
こんなことなら、遠慮なく呼べばいい。
「…でもおれ、」
「うん?」
背中で服を北山がギュッと握った感触がした。
その後、やっぱりいいと呟かれると、身体が離れようとした。でも俺が引き寄せて、また抱きしめなおすと、北山が少し驚いて声を出した。
「…わっ、」
「別に言いたくないことは言わなくていいけどさ、遠慮して何か言わないのはヤダな」
「だって、ふじがやと…離れたくない」
「どういうこと?」
「面倒って思われて離れちゃうくらいなら、少しくらい我慢してずっと一緒にいたい…」
北山は語尾にごめんと言った。
多分重くてって意味。でも、それは違うよ北山。
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作者名:櫻弓 想 | 作成日時:2023年2月12日 23時