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Kside
「宏光！！！」
気が付いたら男に跨られておらず、俺は太輔に抱きしめられていた。
「た、…な…で」
太輔、なんで。そんな簡単な言葉も出なかった。
そんな俺を涙目で見つめた太輔が、上着を俺にかけて乱れた服装を整えてくれた。
「ごめんね。少し遅かった…」
震えを抑えるように抱きしめて、摩ってくれた。
俺は震える腕で太輔に必死に抱きついた。
その太輔越しに、男は警察に取り押さえられているのが見えた。
…よくわからないけど助かった。太輔にありがとうもごめんも言いたかったけど、声が出なかった。その代わりに必死で抱きついた。
その後一度警察に保護され事情聴取となったが、俺があまりにも何も話せないため解散となり、太輔と一緒に自宅へ帰った。
玄関に迎えに来た母は、泣きそうな笑顔でおかえりと言って、俺に何も聞かなかった。
何もできない俺の代わりに太輔にお礼を言い、泊まって行ってと言った。
お風呂に入ると少し落ち着いた。
「たいすけ…」
「ん？」
「どうして、来てくれたの」
隣に座ってそう聞いた。その話くらいは聞けそうだったから。
「宏光、明日お昼からシフト入ってることに気付いて。
お母さんに何気なくその話したら、今日終電で帰ってくるって言ってたよって聞いたんだ」
「…それで、」
「うん…でも、駅行ったら案外人が多くて見つからなくて、見つけた時にはもう抑え込まれてて、すぐ警察呼んだ。電話口で君は動くなって言われて…すぐ助けられなかった」
太輔は傷がみみず腫れになった俺の手をそっと撫でて、ごめんと握った。
「違う…俺が嘘ついたから」
「わかってるよ、宏光が俺に迷惑かけたくなかったって」
「でも、結局こんな迷惑かけた。太輔も怖かったと思う…ほんとにごめん」
今度は俺が太輔を抱き寄せた。
今は俺じゃないでしょと言う太輔を無視して抱きしめ続けた。
「宏光、俺は平気…」
「俺も平気」
「…ひろみつ」
「太輔がいたら平気。店出禁にしたのも太輔でしょ」
「なんで、それ」
「ありがと」
どうやら俺がバイトを休んでいる間に、太輔が防犯カメラを調べてくれと頼んでくれたようだった。
俺が、あいつに体を触られて突き飛ばされたのがしっかり映っていたとのこと。
「ヒーローだね」
「おおげさ」
「…これからも支えてくれるでしょ」
「それはもちろん」
そしたら俺は、平気だ。
END 2023/03/14
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作者名：櫻弓 想
| 作成日時：2023年2月12日 23時
