飛蝶 - 最愛の人 - (ページ32)

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会食は幹部の人達の報告や連絡、裏社会でも一般的な会社とやることは変わらない。

私はと言うと、小瀧さんの言ってたとおり、運ばれてくる料理を頂くだけ。

話の内容はほとんど分からないし、長いこと座っていると集中力も切れてくるわけで…

「あの…、お手洗いに行ってきてもいいですか？」

小『ええけど、場所わかる？そこ出て曲がった所にあるから。』

「わかりました。すぐ戻ってきます。」

静かに席を立って、広い会場を出れば、一気に肩の力が抜けた。

知らない大人だらけの場所に、何時間もいるのって結構疲れるもので。

あと少しを乗切るために、鏡の前で化粧を直していると、

結『あら、あなたも抜け出してきたの？』

隣の化粧台に来たのは小さなハンドバッグを持った結愛さん。

あまり、この人と二人きりにはならない方がいい気がして、なるべく早く化粧を直す。

結『ちょうどよかった、聞きたいとこがあったの。』

鏡越しに目が合うと、

結『あなたはどうしてあそこに入ったの？』

疑いをかけるような鋭い表情

その視線にすぐに答えが出てこなくて。

結『崇くん狙い？』

「まさか…借金を返済するために働かせてもらってるだけです。」

結『そんな人、この世界じゃ沢山いるでしょ。でも、あなたは特別あそこで働いてる。その理由が知りたいの。』

納得する答えじゃなかったのか、さっきよりも冷たい視線を感じる。

結『お気に入りってだけじゃなさそうね？』

少し低くなった声に思わず戸惑う心。

結『先に言っとくけど私、崇くんが好きなの。だから、自分のものにしたくて居るのならすぐに出て行って。』

「別に私はっ…、」

結『知らないでしょうけど、あの人は女を傍に置かないの。幼馴染みの私でさえね。』

もし、私が働かせてもらえる理由があるとするなら、あの人の策略にのせられてるってだけ。

私はこの世界に深く関わる事も、
自分の家族に迷惑かけることもしたくない。

「…結愛さんが思うことは何もないです。私はただ、返済できたらいいので。終われば、すぐに出ていきますから。」

結『…そう。じゃ、早く返済終わらせて。
もし、なにか裏があったらただじゃおかないから。』

まだ信じてない顔で私を睨めば、先に会場へと戻って行った。