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『なぁって、』
「えっ」
『それ貸して』
扉がある壁にもたれながら座って、
学ラン姿の男は私のマフラーを指さして言った。
『寒いねん』
「いや、私も寒いんですけど…」
『はぁ？俺、先輩やねんけど』
「うわ、怖……」
『聞こえとる』
「あ、すいません」
低い声とツリ目気味の男は、どうやら三年生で先輩らしい。
こんな人、居たっけ？
居たら多分、気づきそうなんだけどなぁ…
『てか、なんで屋上入れんの？ここ、鍵ないと入れへんはずやけど』
「あ、こっそり職員室からスペアキー貰ってきたんです。あんまり使ってないから、先生たちも気づいてなさそうだし」
『いや、あかんやろ』
「そっちこそ。なんで持ってるんですか？」
『俺は許されんねん、何しても』
「はい？」
『親が怖いとな先生は言うこと聞くねん』
この人の親は権力者か何か？
ていうか、先生たちそんなんで許しちゃうんだ。
『ここ、俺のお気に入りやから』
「はい」
『一人になりたい時に来んねん』
「はい」
『…察しろや』
「私も一人になりたい時に来るんです。だから、察してください。」
お互いが出て行こうとしない空気に、
『…はぁ。頑固な女やな。』
気だるそうに腰を上げて、立ち上がった男は意外と背が高かった。
そして、細い割に筋肉もあって。
『代わりにこれ貸せ』
「ちょっ、」
『ここは譲ったる、じゃ』
私のマフラーを奪って自分の首に巻いて、
屋上から出て行ってしまった。
鼻を掠めた男の香り。
12月に入ったばかりの外は思ったより寒かった。
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作者名：シャータナ | 作成日時：2020年11月12日 2時
