▷コキュートスの氷 ページ23
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「お前なんか面白いことしろよ」
それが、俺の居たグループの中での恒例行事だった。
特に言っていたのは間違いなく俺だったと思う。それを言われた奴は、しょうがねえなぁー、とか言いながら席を立つ。
なにか面白ければ周りもみーんな笑うし、逆に面白くないならば「つまんねえよー」と言って野次を飛ばす。それも面白くなる。
中学生の時の俺は、とにかく退屈に飽き飽きしていたのだ。
はやくこの怠慢から、抜け出して這い上がりたかった。
「せーんせ、どうしたのー？」
一階の隅っこに設置されている空き教室で、聞き覚えのある声が啜り泣いている。
俺たちはいつここに突撃するのか、延々機会を伺っていた。
そしてその教室から、これまた見覚えのある男が出てきた。学年主任だ。
結婚、してたはず。そう思うと同時に、俺たちはすでに、空き教室へとカチコミを行っていた。
「あ……っ、白ヶ崎くんたち、何して………。もう授業、始まってるよ？ 急がなきゃ……っ」
「先生、涙声だね」
「………、っ」
俺の声に、びく、と肩を跳ねさせ、そのまま震える先生。かわいーなぁ、と嘲りの感情が、俺の中を漂った。
先程まで伝っていたのであろう、涙の筋道を指で、す、となぞって、そのまま先生の首をガッ、と勢いよく掴む。
また、先生は震えた。かわいそうなほどに、俺を乞うように見つめて。
「………話してくれるよね？ せんせい、」
ごく、と喉が隆起する音が、聞こえる。
「俺同性だけど怖ぇわー………」
放課後、ぼそりと呟かれたそれに、俺は首をかしげる。仲間内のひとりが、「なにがー？」と問いかけた。
するとそいつは、からかうように俺を見る。
「未冬が、だよ。先生によくあんなん出来んなー……って。さすが学年一のモテ男」
「はは、なんだそれ。初耳だし、俺いつからモテ男になったんだよ」
「いやー、だってお前マジ告白されたら誰とでも付き合ってるし。元カノ何人だっけ、20人？」
「えー知らねえ、覚えてないな。40くらいじゃねえの？」
「やーば。告白されたら男でも付き合うんじゃない？」
「えー……まぁ、断る理由なければな」
俺のその言葉に、友達がまた「ヤバいなお前……」とこぼす。なんでだよ、多様性だろーが。
友達のその反応に、俺はくすり、と笑って返した。
「玩具をわざわざ買い替えねえことと一緒で、壊れていなければ使い道はあるってこと。それなりにはな」
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作成日時：2024年3月28日 10時
