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硝子さんが、空になったカップに再びコーヒーを注ぐ。
注ぎながら、「初恋、上手くいってんの？」と尋ねてきた。
「うーん………初恋としては、上手くいってない。親友扱いされてるし」
「へぇ？ その子、男女の友情信じてるタイプなんだ？」
「って言うよりは、たぶん男だと思われてないね。いや、思われてはいると思うけど、なんていうか………同じ人間として扱われてる感じ？」
硝子さんは俺の拙い説明でも状況が理解出来たようで、「なるほどね」と頷いてくれた。
俺は保健室のベッドに座り、そのまま寝転ぶ。彼女も特に、咎めはしなかった。
「はぁ、…………触れることは、こんなに簡単なのに、心を手に入れるって、ほんと難しい…………」
「………どこまでやったの？」
「えー………頭の撫で合いはしたし、甘噛み (猫時) はされたし、耳攻めはしたし、ハグもした。バックハグもしたし………普通のキスと、ふかーいキスまでは、したよ」
「…………それで、付き合ってないの？」
「うん。付き合ってない。ていうかまぁ、俺が自覚する前も、してたしね」
「………………」
硝子さんは大きな溜め息をこぼした。頭痛でもするのか、ひっそりと頭を抱えている。
「………それさ、女の子側はなんも言わないの？ 抵抗とか、してない？」
「いや………特に何も。鈍感だし」
「もはや鈍感とかのレベルでは無いね………」
低い声でそう言った。それには俺も激しく同意である。
と、ふいに硝子さんの携帯から着信音が鳴り響いた。
「ん、………あー、五条か。そういや今日この後、来るとか言ってたな………」
「あ、そうなの？ じゃあもう俺行くよ。ちょうどココア無くなったし。ありがとうね、硝子さん」
「べつに気にしないで居てもいいけど？ 五条のほうがどうでも良いし」
「いやー………今は五条悟には、会いたくないと言うか。今現在俺が一番、大敗してる相手なんでね」
「……………？」
初恋を実らせるには、何もかもに負けている五条悟を超えなきゃいけないって訳か。あと猫。
ひらひらと手を振り、保健室をあとにする。外はまだほんの少し寒いけれど、毎日あたたかさを増していた。
地面を踏みしめながら、暇だし、元カノに電話でもかけるか、とスマホを取り出した。
「………あー、もしもし？ ごめん、中学校ん時は色々と。片想いのつらさとか、考えてなかったわ。……うん、ごめんね、」
雪解けの羊は、恋をした。
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作成日時：2024年3月28日 10時
