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「好きな人がさ、出来たんだよね」



俺は気が付いたら、そうこぼしていた。


居心地が良くも、誰かに聞いてほしかったのかもしれない。欲しい言葉がなんなのかは、自分でも分かっていないけれど、ただこぼしたかった。

硝子さんの、コーヒーをすする音がする。


それには構わずに、あの子とキスをした、俺のくちは続けた。




「初めての経験過ぎて、勝手がよく分からない。今までよりも優しく扱ったほうがいい気もするし、今まで通りでもいい気もする。



あの子は、今まで通りで、もっと雑でも良いって言うけど、俺の心が、脆弱過ぎて、壊れ物過ぎてさ。


すっげえ鈍感だし、何も気付いてもくれないし。たぶん茨の道でしかない道を進んでんだと思うけど、





──────好き。好き過ぎて、ちょっと困る」



また、コーヒーを飲む音がちいさく、する。硝子さんは、コーヒーカップの中でゆらめく水面を見つめながら、俺に向き直った。

そして、親戚の俺でも色気があると感じる唇を動かし、くちを開く。



「未冬が、小学生とか中学生の時とかに山ほど彼女作ってたの、

…………アレ、正直私は不安だったんだよね」


初めて聞く、その吐露に、俺はただ黙って、頷いた。



「大して好きでも無いんだろうなと思って、なんでそんな彼女作んの? って聞いた時もさ、「断る理由がなかったから」とか言うし。


あん時は、アンタもまだ私の家で二人暮らしだったでしょ。だから、なんか余計にさ。


父親はあんなに未冬を愛してたのに、未冬は誰かに愛をあげられない人間なんだなって、思ったよ」


言葉は、出なかった。だって本当にその通りだったから。


もう一度、硝子さんはコーヒーを飲む。コーヒーカップの中身は、もうすでに空だった。




「………だから、馬鹿みたいなこと言うけど、なんか嬉しいね。あれかな、親バカってやつ? 親じゃないけど」

女性にしては低い、硝子さんの声が、俺のピアスホールのある、耳朶に響いて、とける。



────父親が、あの人で。親戚が、この人で。本当に良かった、と俺は思った。




雪が、(ほど)けていく。





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作成日時:2024年3月28日 10時

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