雨宿りするなら君の胸の中で。 ytin

08. 幸せになるため ページ8

in sidd



宏太「 おい泣きすぎだよ 」


「 っぐす…」


宏太「 あーあーもう！鼻水垂れてっから！」




ほら、っと半ば押し付けられるようにしてティッシュを受け取り鼻をかんだ。
二十代後半にもなって恥ずかしい。

やっぱり薮の前ではどうも幼くなってしまう自分がいる。







宏太「 お前が何を抱えてるとか何を思ってるとか俺は知ったこっちゃねえけどよお……幸せになる権利は誰にだってある。それだけは覚えとけ 」






昔から、薮は同い年のくせにじじくさくて。
華奢で頭も良くて運動もできるけど、どこか性格はひねくれてて友達が極端に少なかった。

だけど俺も、ひかるも、そんな薮に惹かれたんだよ。

面倒くさがりだけど面倒見は良くて、賢いくせにぶきっちょなとこも。
一人じゃ絶対生きいけないと断言する潔さも。








「 …ひかる、生きてる、かな 」







彼が行方不明なってからもう13年が経とうとしてる。
初めこそ俺のせいだと嘆いたけど、ひかるの両親は俺を責めたりしなかった。






『 慧ちゃんっ、もう大丈夫よ 』

『 あの子が守りたかったものは、僕たちが守らなければいけないものでもあるから。』





むしろ、親のいない俺を実の親子みたいに「おかえり」と迎え入れてくれてその日は多分人生で一番泣いた。

生まれた瞬間に死ぬのが怖いと泣き喚いた以来。









宏太「 どこ、ほっつき回ってんだよ…あのバカ 」



帰ってこい。その呟きがお酒に濁された。
俺は何も言わずに身を乗り出して、頭を撫でた。








「 待つって、決めたもんね。おかえりって二人で、俺たちとひかるのご両親と言うんだもんね 」









俺だけじゃない。あれに責任を感じてるのは、薮もひかるのご両親も一緒だ。








宏太「 ああ、俺もここまできたら諦め悪くなってみせる。だからお前も…誰かを好きになることを諦めんじゃねえよ 」



「 …ひかる、言ってたんだよ 」









太陽に当たると少しだけ茶色に見える髪をなびかせて、ひかるは笑いながら言ってた。



『 いのちゃんに好きな人ができたら、絶対俺に教えろよ？薮とあれだ見定めてやる！』








「 …好きな人ができたら、会わせろって 」


宏太「 はは。あいつはオカンか 」


「 うん。でも嬉しかったなあ…」






宏太「 じゃあ…会わせろよ 」


「 へ？」


宏太「 見定めてやっから、ヒーローくんに会わせろ。」








なにかデジャヴを感じて、ああもう…また泣きそうだ。

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