雨宿りするなら君の胸の中で。 ytin

46. 優しい鎖 ページ46

yt side






「 ただい、……っわ！」







玄関を開けてすぐ、俺の胸へ慧さんが飛び込んできた。
何とか踏み堪え抱きしめれば、バッ、と顔が上がる。






慧「 っ……生きてたっ…！…っひかるが！」






溢れて流れる涙を拭う。
そんな瞳するなんて…妬けちゃうな。







「 おめでとう、慧さん 」


慧「 君のおかげだよ…っ」


「 ゆっくり話したいから、リビング行こっか 」


慧「 あっ、ご、ごめん！」





ついに、来てしまったか。
なんて。協力したくせに。







慧「 今日のお夕飯は、ビーフストロガノフです！」


「 えー！俺今日食べたいって思ってたんだよ。慧さんってほんとすごいね 」


慧「 …もおっー！それ昨日も言ってたじゃん！裕翔くんは俺に甘すぎるよ…」


「 だって慧さんの料理は何だって美味しいから……ダメだった？」








ほら、目に焼き付けておかないと。







慧「 …そういう優しいこと、大好きだよ 」









あなたがまだ、ここにいる内に。
俺の手の届くことに、いてくれる今は、きっともう、長くないから。




「 そう。俺ね、あなたにだけ、優しくって特別甘いんだ。」






俺より少し低い位置にある頭を撫でて、頰を両手で包む。

涙が出そうだ。あなたが俺の目を見て困ったように笑うから。








慧「 だから、俺が、光を探しにローマへ行くって言っても君は笑顔で、行ってらっしゃいって言うんだ」








離したくない。どこへも行って欲しくなんかない。

それでもこの手を離せるのは、優しさでもなんでもない。ただの恐怖からだ。








離れることより、あなたに嫌われるのが怖くて仕方ない。









慧「 ……ごめん、裕翔くん。」


「 謝らないで？慧さんにとって、光さんがどれだけ大切な人かってちゃんと知ってるから 」


慧「 君は、ほんとに…」


「 優しいって？…そんなことないよ。だって、」









手を離して、寝室へ。
小さな引き出しを開け、取り出す小箱。









シルバーのダイヤが付いたそれをあなたの指にはめて、跪く。
口元を覆って涙を流す、あなたは綺麗過ぎて、言葉につまりそうだよ。








「 こんなもので、あなたを縛ろうとしてるんだから。」


慧「 ゆ、とく…っ」









もしも、あなたが俺と一緒になることを望んでくれるのなら。








「 伊野尾慧さん、俺と、結婚してください。」





もう一度、俺の胸へ飛び込んでおいで。








慧「 っ…はい！」

47. せいぜいお幸せに→←45. 光彩へ向かって

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す