雨宿りするなら君の胸の中で。 ytin

36. 金色のカンバス ページ36

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疲れていたのか、また眠ってしまった彼をベッドに置いて、昼食でも作ろうかとキッチンへ。



廊下に出て、ふと今まで入ったことのなかった部屋の扉が開いていることに気づいた。

勝手な見たらダメだろうか、と思ったけど、彼に干渉することに躊躇いがなくなった俺は足を進めその扉に手をかけた。







記憶の中、ぐらり、何かが揺れる。
独特の香りが鼻を掠めた。









知ってる。








「 ……っ、な……」









俺は、これを、知ってる。









「 なんで……この絵が…っ」






目の前がチカチカする。
何度もフラッシュを焚かれた後みたい。

それでいて、鈍器で頭を殴られてしまったような痛みすらおぼえて。



俺は、赤ん坊のようにゆっくり、その絵に歩み寄り、掌をかざした。





劣化しているのか、ところどころ紙が痛んでいる。
色も少し落ちている部分があった。

それもそうか。これがもし、本物なら…十年も前に描かれたものなんだから。









茶色い額に入れられたそれは、間違いなく、彼が昔俺に見せてくれた絵だ。









裕翔「 …ふぁ……けい、さん？」








気配を察知したのか、起きてきた彼が俺の背中に凭れる。

けれど今俺は、それを笑顔で受け入れてあげられるほど余裕がない。









「 裕翔くん、これっ……どこっ、どこで手に入れたの 」









彼の腕に触れることなく、また、振り払うわけでもなく、ただ焦って後ろを振り返り問うた。

あまりの剣幕に目が覚めたらしい裕翔くんが思い出そうと、目をそらす。








裕翔「 手に入れたっていうか…貰ったんだ。」


「 誰にっ？！」


裕翔「 大学の頃。臨時講師の人に。まあまあ仲良くなって、その人のアトリエに行った時に気に入ったものがあったらあげるって言われてそれで…」


「 …その人の容姿とか、特徴とかって覚えてる？」









彼が大学生の頃ということは、まだ二、三年前の話になる。
……充分すぎるほど、リアリティがあって、あり得る話だった。





裕翔「 すごく綺麗で、儚いっていうか…金髪なのに、いや、だからこそ…存在自体、儚い人だったな。透明が似合う感じ 」






でも描く絵はいつも、色彩が鮮やかだった。









裕翔くんのその呟きに、涙が溢れた。







『 いのちゃん 』






光(ひかる)だ。






なぜか、確信があった。

彼の声がもう思い出せないことに、気がついてしまったときみたいだった。

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