検索窓
今日:1 hit、昨日:0 hit、合計:4,705 hit

ページ8

*


「なぁ」

これまでの無言を、彼は破った。

「貴様、殺した人間の顔は覚えているか」
「…覚えている奴と、いない奴がいる」
「その違いは、なんだ」

唐突だった。覚えているのといないのとの分類など簡単に出来っこない。そもそも、何故彼はこんなことを聞いてくるのか。
相変わらず鉄兜で目元は見えないのだが、酷く冷たい目をしているのではないか。そんな事を考えながら、「敵と味方」と漠然とした回答をした。

「そうか。そうだな。じゃあ、死んだ人間の顔は覚えているか」

死んだ人間。
先程の質問で「殺した人間」が出てきたということは、これは自分が殺していない。つまり、敵に殺されたか、病に倒れて道端で死んだ人間の事だろう。ふと、此処に来る前に見た穏やかな顔の仏の兵士を思い出した。

「………」
「わからないか」
「…あぁ」
「教えてやるよ。覚えてるのは、人間と思ってる。覚えていないのは、人間と思ってないんだ」
「は?」

理解出来ず山口が聞き返すと、彼はちょっと唸った。どうやら、噛み砕いた説明をするのに色々考えているようだ。やがて、治りかけの首の銃創を摩りながら言った。

「上陸する米軍を迎え撃つ時に、大隊2つが配置された事があったろう。彼処で刺突爆雷や銃剣、軽機を持って突撃し戦死する大勢の兵を見て貴様はどう思った?」
「どう思った、と言われても…人が死んだ、と」

自分がそう答えると、彼はまた考え込むように顎をさすって、言った。

「他人が死んでいく分には、俺たちは何も感じない。ああ、駒が死んだ。そんな程度の認識だ。だが、人間性を知っちまうともう駄目だ。人間としか思えないんだ。だから、人間が死んだと、思ってしまうのさ」

山口には、目の前の兵士が言う言葉が理解出来なかった。頭に疑問符を浮かべたまま兵士を見つめていたが、急にぞっと寒気が走った。
彼の纏う雰囲気が、一瞬にして変わったからである。
ジャングルの背の高い木々が風に揺れた。

「逆に言えば、他人なら、敵味方構わず殺せる力を持ってるって事だ。『俺たち』は」

それはほぼ、軍隊生活で身に付けた反射と、空腹状態から引き出される生物の本能であった。

8→←6



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (18 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
6人がお気に入り
設定タグ:歴史 , 短編 , オリジナル作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:嵩画@ブレリオ式単葉機 x他1人 | 作者ホームページ:   
作成日時:2017年9月9日 22時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。