03.異なる思想 ページ4
この人、確実にヤバい人だ。
「どこかの肥えた老人どもに搾取されることのない、若者の新しい世界を創るんだ」
堂々と私にそう告げる彼は、その思想が絶対と思っている様子。
淡々とその思想を語ってくれた。
大人はこのまま殺し、武力行使で若者の新しい世界を創りたいらしい。
それは些か、いや、かなり偏った思想だと思う。
「大人でないとわからないことは、どうするんですか?」
「例えば何だい?」
「えっと、色んな知識…歴史とか、医学とか、あと科学とか」
「新しい世界だ、歴史は要らない。医学は若い中にわかる人間もいるさ。科学は必要最低限でいい」
科学は必要最低限。
千空が聞いたらどんな顔するかな。
何はともあれ、この人の思想に私はついていけそうにない。
「とりあえず、貴方の言いたいことはわかりました。けど、私は若者だけじゃない、人類みんなを助ける術を探したいです」
はっきり言ってみると、ニコリと微笑まれた。
「同じ思想を持てとは言わないよ。うん、ただ、敵対するなら排除する。それだけさ」
微笑んだ目の中が笑ってはいない。
嫌な汗が背中を伝うのがわかった。
「わかり、ました」
抗ってはならない。
有無を言わさない威圧感に息がつまる。
逆らわない方がいい。
「そういえば、自己紹介がまだだったね。俺は獅子王司。司と呼んでくれてかまわない」
「は、えっ、あの、霊長類最強の?」
「うん、そう言われているね」
そりゃ威圧感も強い訳だ。
知ってしまうとより怖い。
「君は新体操の国体選手だった、橘花Aさん、だろう」
「あ、私の事知ってるんですか?」
「ああ、仲間に記者がいてね」
「なるほど」
仲間がいるんだ。
私や彼だけではない。
じゃあ、もしかしてーーー
「あの、仲間の中に、千空という人はいませんか?」
真っ先に千空の名前が出た。
この心細い世界で、私は彼に会いたい。
何故だろう、杠や大樹くん、家族にだって会いたい。
でも、まず、千空に、彼に会いたいと思った。
「…君とその人はどんな関係だい?」
私から千空の名前が出ると、彼、司さんは神妙な面持ちに変わった。
「幼馴染で、学校の同級生で、友達です」
「そうか…うん、いないよ」
「そうですか…」
司さんの反応が気になる。
けど、追求したところで答えてはくれないだろう。
私が生きてるんだもの。
きっと、また千空に会えるはずだ。
今は信じて待つしかない。
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作者名:菜野花 | 作成日時:2023年4月29日 21時