20．溢れる感情 ページ22
洞窟の爆発からもう一夜明け、やっと千空たちは帰ってきた。
出かけたメンバーともう一人、女の子を連れて。
そして、私の嫌な予感は的中していた。
「なんで、司が…」
司だけ、担架に乗せられ、その胸から血を滲ませつつ、帰ってきた。
すぐに準備していた洞窟へ運ばれる。
「司の妹…未来を助けた後、氷月の奇襲を受けた」
コハクちゃんに事情を聞き、氷月とは誰か訊ねる。
すると、出発前に私と目のあった、細目のあの人だった。
縄で縛られ、大人しくしている。
やっぱり…あの人だ。
他のみんなとは空気の違う、怖い人。
私は氷月に近づく。
コハクの止める声には振り向かない。
「…最低ですね」
バチンッと乾いた音が響き、氷月の頬に赤みができる。
考えるよりも先に動き、彼の頬を叩いていた。
私がこんなことするのはお門違いかもしれない。
でも、衝動的に動いてしまった。
私の行動に、その場がシンと静まり返る。
「……A、手伝ってくれ」
静まる中、千空に呼ばれた。
私は黙ったまま、千空の元へ行く。
みんなもそれと同時に、それぞれが動きだす。
司のいるのと別の洞窟へ行き、千空はフラスコやら薬品やらを準備する。
私はついてきたものの、黙って立っている。
「大丈夫か？」
「…え、あっ、あれれ？」
唐突な千空の言葉に、目頭が熱くなり、ポロポロと抑えられない涙が溢れ出る。
「あれ、おかしいな、なんで、涙なんか…っ」
自分でもわからない。
司のケガが心配なのか、嫌な予感がしたのに動けなくて悔しいのか、それとも悲しいのか、怖いのか、よくわからない。
それでも、ポロポロ涙が出る。
涙を手で拭うが、止まらず、強く目を抑える。
「ごめんっ、今止めて、手伝う、から」
「いや、いい。擦んな」
千空は私の手を取り、目から手を離させられる。
その両手を持ったまま、千空は無言で私を見る。
止めようとする涙は止まらず、千空の顔はぼやけてしまう。
「大丈夫だ」
千空の低めな声が耳元で響き、優しく抱きしめられる。
千空の心臓の音がドクドクと聞こえてくる。
そしてゆっくり、私の背中を摩ってくれる。
「司は俺が絶対に死なせねぇ、百億%確実に」
暖かくて、優しくて、私は千空の服をギュッと掴み、声を殺して泣く。
情けなくてごめん。
何も出来なくてごめん。
弱虫でごめん。
もう少し、あとちょっとだけ、こうさせて。
もう後悔しないように、泣かないように、強くなるから。
.
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作者名：菜野花 | 作成日時：2023年4月29日 21時
