15．たくさん話そう ページ17
あれから、司さんが深々と頭を下げ、謝罪してくれた。
私への不当な扱いに対して謝罪、とのこと。
「謝ることないですよ。私を見つけて、復活させてくれて、それだけでチャラに出来ちゃいますよ」
「…うん、ありがとう」
顔を上げ、微笑む司さんは、私の知っているあの恐ろしい感じはなく、優しさに包まれていた。
あ、でも、せっかくなら条件を出しちゃおう。
「せっかくなので、許す代わりに、敬語やめてもいいですか？」
私が言うと、司さんはほんの一瞬驚き、笑う。
「ああ、もちろん。名前も呼び捨てでかまわないよ」
「えへへ、じゃあ、司って呼ぶね」
「うん、いいね」
司さん…もとい、司と和気藹々。
冬の間は、まさか、こんな関係になれるなんて思わなかった。
みんな忙しい様子で、司は「また」と言い、去っていく。
手を振ってそれを見送り、周りを見渡す。
すると、一度だけ話した彼が見えた。
「クロムさん！」
駆け寄り、名前を呼ぶと、本人も彼の周りも驚いた顔をする。
「おー、A、だっけか」
「無事に逃げれてたんですね。さすが科学者！」
「あったりまえだろ！」
私の言葉に鼻息荒く、胸を張る。
なるほど、おだてに弱いタイプとみた。
面白い人だなぁ。
「クロム、この方は？」
「Aつって、俺が司軍から逃げときた時にあったんだよ」
一つ結びで金髪の女の子が話しかけてきた。
「初めまして。Aといいます」
「私はコハク。よろしく頼む」
なんだか古風な話し方の子だな。
「Aも千空たちと同じ、復活者なのか？」
「そうですよ。千空とは幼馴染なんです」
「ほぅ、そうだったのか」
そこから、私が司軍にいた経緯やら、コハクさんたちと千空との出会いやらを話した。
千空が御前試合に出て優勝した話には、思わず吹き出してしまった。
だって、あの科学ばかりで運動からっきしの千空が武術とか、しかも優勝しちゃうとか、天変地異の前触れ…いや、後触れだ。
あと、知らない間に千空がバツイチになっていたことには、少なからずショックを受けた。
まぁ、即離婚だったらしいし、相手のルリさんと何もなかったらしいし、ただ材料集めのための結婚だったんだし…。
自分に言い聞かせるように考えるが、やはりモヤモヤする。
「ところでA、私やクロムに敬語や敬称は不要だ」
「え、いいの？クロムさんも？」
「おう、いいぜ。クロムさん、とかむず痒くてよ」
「わかった。そうするね」
今日は名前呼びが増えるなぁ。
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作者名：菜野花 | 作成日時：2023年4月29日 21時
