【文スト】また、雨の降る日に

雨 ページ32

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ーーー雨は嫌いだった。






「……見張り、ですか」







_____ポートマフィア拠点、最上階にて。


「そうなんだよ。最近密輸入を繰り返している命知らずな不埒者が居てねえ…」


窓の外を見るまでも無く、外は曇一色だった。
湿度も目に映る色も晴れと打って変わり、其奴が来ようものなら、心も体も欝に沈む様な感覚に陥る。

視界は霞み、地面の香りは鼻に纒わり付く。異能で防ごうにも相手は液体。瞬時に無重力状態へ持ち込んでも、触れた瞬間、其奴は衣類に染み付く訳だ。

メリットは皆無。それどころか任務にも支障がでる。



「こんな無価値な仕事、中也君に頼むのは考慮し難いのだけど…なんせ威厳のある選択が必須でねぇ。最近、異能特務科の方も動き出した訳だし」


休息ついでに頼めるかな？

目の前で手を組んだ男_____我らがマフィアの首領(ボス)、森鴎外はニコリと笑う。


どんなに無価値な任務だろうが俺らには「YES」か「はい」、そのどちらかの選択肢しか用意されていないのだが。

俺は帽子を胸に瞬きをすると一言、「承知しました」とだけ吐いて一礼した。

それから背を向けてフレンチドアに向かう_____



「あ、中也君、少し待ちたまえ」
「？何でしょう」


と、首領の明るい声に止められた。
振り返ればニコリと笑う首領。その手には完全な黒には満たない、涅色の混じったシックな傘が握られていた。

疑問を持ちつつ受け取れば、重みがあり骨組みも確りしている事が瞬時に判った



「降り出しそうだから持っていくと善い」






*



おそらく俺以外の誰かの傘だろうか。
使うのは気が引ける、が、受け取ったからには素直に使うしかねェよなあ。

“ 「棄てて貰って構わないから」 ”

と云われても。



「それにしても見張りねェ……」



こんな簡単な仕事が回ってきたのは幾年ぶりだろうか。首領には何か考えがあるのか否か、此処ん所出張続きだった俺に休暇ついでの仕事なのか_____

そんな事を考えつつ傘を持つと、鬱陶しげに空を見上げて、小さな溜息をついた。


……まァ、何時かは止むだろ。今日は下見だけだしな。

傘を広げればその場で暗がりが広がって、降り始めた雨を弾き出した。
夕立って奴だろうか、雲は厚く、その灰色は見る限り空を覆って光を遮っていた。


ポケットに手を突っ込み下を見ると、靴は濡れ、人々は直ぐ隣を走り去って往った。

必然的に人は居なくなる。




雨に感化されたヨコハマは何とも閑静で_____

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