第6話 ページ6
**
『────いやあ、助かった助かった。
真逆こんな所でこんな形で出会えるなんて、奇遇な事もあるもんだね』
洗練された江戸茶色の革製の座席と広がる少し苦めな男性用の香水の香り。私は、助けてくれた黒塗りの高級車に勝手に乗り込んで直ぐ、右の運転席を見た。
『久しぶり────中也』
名前を呼ばれた運転手は、右に肘を置いて、億劫そうに背に凭れたまま、顰めっ面で私を一瞥した。
「……奇遇じゃねェ」
『うん?』
「俺がどれだけ手前を探し回ったか」
口だけ小さく動かして、其れから首をこちらに向けた。
ふわりと揺れた橙色と目つきの悪い青色は、久方ぶりで少し大人びたように感じる。
「四年も今も着拒しやがって」
『あれ、ごめん。電話した?』
「死ぬ程してるッつの。て云うか、帰ってくる日くらい連絡しろよ」
『はは、ごめんごめん。忘れてた』
「………手前なァ」
「お陰で日ィ沈ンじまったろ」。私は首領の連絡先以外入っていない携帯を弄りながら、そんな事を云う中也に目をくれた。
『何か用事でもあった?ごめんね』
「違ェよ。手前俺の話訊いてねェだろ」
呆れた様に溜息を吐いた中也。自分の車の中なのに、何処か居心地が悪そうに頭を搔いていて、「之だから手前は……」と文句を呟かれる。
「数時間前だ。出張から帰るなり、突然ニコニコした首領が「A君が帰って来たよ」なンて云い出すじゃねェか。聞き間違いだと思ったぜ。なのに当の本人は人の気も知らず悠長に「そこら辺を散歩してるかも」だァ?」
『え、な、何か怒ってる……?』
珍しく止まらない怒涛の愚痴。
あ、中也さん、これはお怒りですね。
ご機嫌を伺う問いかけをした後、これ以上逆鱗に触れぬ様口をピッタリと結んだ。重力遣い怖いよ。
「手前の事だ。どうせ疲れてへばッてンじゃねェかと思ったが、案の定電話にも出ねェし最終的には男に捕まってるし。手前、承諾しかけてただろ」
『だって……』
「あ"ァ?」
『すみません。その通りです。はい』
睨みとドスの効いた声に背筋が伸びた。
圧が凄い凄い。右を向いて謝罪して、それから目線をゆらゆら泳がせる。久しぶりの再会だって云うのに、温厚な筈の中也の機嫌を損ねてしまうとは。
『あ、あの〜……中也さん?』
「あ"?」
『え、……えーと、私を探してくれて居たんですよね?
其れは如何して?』
「……ああ。そうだ、今までのツケ」
『?』
「飯、付き合えよ」
**
814人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
空浮 - 気づいたら全部読み終わってました!めっちゃ感動しました!ありがとうございました (3月26日 16時) (レス) @page45 id: 29094487c6 (このIDを非表示/違反報告)
(3)(プロフ) - この儚い感じがめちゃくちゃ好きです!!なずなの花言葉見て尊敬しました!素敵なお話をありがとうございました!! (9月22日 22時) (レス) @page43 id: 3b6fa5f09a (このIDを非表示/違反報告)
べべべーべ(プロフ) - ぼろっぼろに泣きました。とても素敵な作品でした。中也の立場にも胸が締め付けられました…ありがとうございました (9月12日 19時) (レス) @page45 id: 49ba69b450 (このIDを非表示/違反報告)
高澤白(プロフ) - aさん» 密かでも死ぬほど嬉しいですここまで長くなってしまい申し訳ありませんでした!並びにお付き合い頂いて本当にありがとうございました!完結できたのは読んでくださった皆様のおかげなので…コメント噛み締めて余韻に浸らせて頂きますね…ありがとうございました! (2023年3月31日 20時) (レス) id: 4197b069bb (このIDを非表示/違反報告)
高澤白(プロフ) - yuuki Sさん» 最後まで本当にありがとうございました…!何度もコメントくださってとても嬉しかったです。私のモチベでした( ᐪ ᐪ )♡寂しいと言われこちらも寂しくなってしまいました。終わらせるのが惜しいです。本当に最後までお付き合い頂きありがとうございました! (2023年3月31日 19時) (レス) id: 4197b069bb (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ