５７ ページ10
.
目黒から逃れるようにステージを駆け下りた私は、それなりに距離がある楽屋へと駆け戻る。
少々勢いよく開けた先は暗闇で。
忘れ物を取りに来た2人以外は、もう会場を後にしていた。
『……見られて、ないんだよね』
右ポケットから取り出したのは、無惨に切り裂かれた茶色いリストバンド、……だったもの。
着けることはできなくなっても、肌身離さず持ち歩いていた。
これを握ると、9人に守られているような。
そんな気持ちになれるから。
どうしても手放すことはできなかった。
『2人が来る前に帰らないと…』
急いで汗ばむTシャツだけを替え、康二と目黒が来る前に会場を後にした。
そして、少し歩いて離れたところで、スマホを取り出す。
《「――もしもし？」》
『あ、お疲れ様です。今日はありがとうございました。2人きりで相談したいことがあるんですけど』
《「それは急ぎ？」》
『できれば早めに、会ってお話ししたいです』
補聴器越しに聞く電話の声は聞き取りにくくて。電話では満足に話ができないと思った。
素直にそう伝えれば、車でこちらに来てくれることになった。
――待つこと30分弱。
滝「……お待たせ」
『すみません、お手数おかけして』
滝「どうせ車出してたし。この中が一番2人きりには適してるでしょ」
そういった滝沢くんは、会場の駐車場へと入り、人気のない隅に駐車した。
滝「それで、相談っていうのは？」
『……、…Snow Manとしての活動を、…終わりにしたくて』
は？と声を漏らした滝沢くんは、珍しく動揺した様子で私の顔を見返してきた。
……かと思えば、眉間にしわを寄せて、
滝「……最近、お前らの空気が悪いのと関係ある？」
なんて、なかなかに確信めいた所を突いてくる。
さすがは副社長。
雰囲気が悪いことくらいは気付くか、流石に。
『……なくはないです。…でも、直接的な原因はみんなではなくて』
お弁当やリストバンド、マグカップの件は伏せて、ただ、雪村さんとのことだけを話した。
本当にそれだけ？と訝しげにする滝沢くんには申し訳ないけど、
みんなのことは今回の事とは関係ない。
どちらかといえば、自分にそう言い聞かせたかった。
頼り方はわからなくなった。
信頼関係は揺らいでしまった。
だけど嫌いにはなってない。
たまたま擦れ違っているだけだから……
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2264人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「SnowMan」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
むち(プロフ) - 大号泣しました。。すっごく苦しくて感情移入しちゃって。素敵な作品でした。ありがとうございました (2021年4月27日 1時) (
レス) id: fc08b9a7cc (このIDを非表示/違反報告)
テクノに恋した天気予報士 - うらつくの作品でこんなにも泣いた作品は初めてです、もうほんとに明日学校あるのに目が腫れるってくらい泣きました、本当に面白かったです。素敵な作品ありがとうございました (2020年7月28日 23時) (レス) id: f20013ee9d (このIDを非表示/違反報告)
えびまろ(プロフ) - 初めまして。この作品を読んでいると、信じてもらえず本当の気持ちも言えないもどかしさ、苦しみに気づいて支えてくれる優しさ、気づけなかったメンバーの後悔など様々な感情で胸がいっぱいになり、終始涙でした。素敵な作品をありがとうございました。 (2020年7月15日 0時) (レス) id: 79d7d19d55 (このIDを非表示/違反報告)
う(プロフ) - 初めまして、1から全て1気に読みました、ずっと涙が止まらなくて苦しくなるほどでした、こんなに感情移入したのは久々でした、素敵な作品をありがとうございました、最後に幸せになれて良かったです、お疲れ様でした (2020年7月10日 0時) (レス) id: ab44f752c1 (このIDを非表示/違反報告)
renyaxxx8(プロフ) - めちゃくちゃ泣きました。号泣しました！！素敵な作品ありがとうございます！ (2020年6月29日 4時) (レス) id: 24c62dd776 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：おれんじ
| 作成日時：2020年5月8日 22時
