狭い私の世界 ページ42
「じゃあね、多分だけど、二人がこの先も一緒にいるんなら、工藤くんはAちゃんの前に立ち続けるよ」
「……え?」
「工藤くんは、ずーっとAちゃんに対しての視線を遮って、現実を見せない」
「ずっと……」
「うん。きっともう、それが工藤くんにとっての当たり前なんだろうね」
「当たり前……」
「かわいそう、Aちゃん」
「……」
遥樹くんの、かわいそう、という言葉が、胸に突き刺さった。
そうだったんだ。
私は今まで、新一が作った、小さな箱の中でしか生きてなかったんだ。
私の周りは、天まで届く高い高い壁に囲まれてる。壁の向こう側は、どう足掻いても見えない。声も聞こえない。
狭い私の世界の中には、新一と、新一が信頼できる人と、私の少ない友達しかいない。
外の世界で私がどんな目で見られてても、どんなことを言われてても。
私はそれを知らずに、気にもしない。
この小さな世界で、幸せに暮らしてるんだ。
これが私の全てだと、勘違いしながら。
偽物の幸せかもしれないのに、私は永遠にそれに気づかない。
天を仰げば青い空が見える。
でも横を見ても、その先の景色は見えない。
あの木の向こうには、何があるんだろう。
希望を持って前に進んでも、立ちはだかる壁にぶち当たって、絶望する。
広い世界を見たい、と泣き叫んでも、「お前はこの中で生きていけばいいんだよ」って、どんな人でも騙すあの笑顔で、新一が言って。
私も、「そっか」って、納得するの?
ねえ新一。
私はもう、弱くないんだよ。
泣いて守ってもらってたあの頃の私とは、もう違うの。
きっと、どんなに妬まれてても、恨まれてても、受け入れられる。
私には、立ち向かえる足があるの。
だから、もういいよ。
私の前に立ち塞がらないで。
「……Aちゃん、」
「遥樹くん」
「……なに?」
「私と新一が近くにいる限り、私はずっとこのまま?」
「……うん、多分ね」
「離れれば、変わる?」
「え?」
「私と新一の距離が、遠くなれば、私はもっともっと、たくさんのことを知れる?」
「……遠く?」
「私、きっと、つらいことでも耐えられる」
「……」
「泣きそうになって、心が折れそうになるかもしれないけど、立ち直れる……」
「……ほんとう?」
「わかんないけど……がんばれる……」
「……そっか……」
帰ろっか、って言って、遥樹くんが笑った。
足元から伸びる自分の影を見つめながら、帰り道を歩く。
なんだか、息苦しい。
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極・吹雪姫 - ちょっとびっくりしたのが、弟の瑞紀(みずき)と私の「ミズキ」が被ったことだわね。 (2019年5月2日 20時) (レス) id: c4455a25af (このIDを非表示/違反報告)
極・吹雪姫 - ごめんなさい、本当に途中で泣きそうになったわ。「泣く」ですわ。泣いたページ。 (2019年5月2日 20時) (レス) id: c4455a25af (このIDを非表示/違反報告)
紅葉(プロフ) - こいつらまだ小学生だった…!なんつー濃い恋愛を…!この小説すごく好きです!遥樹くんのちょっとした嫉妬がこぼれて、それを見てとても切なくなる。ヒロインの気持ちはよく理解できるけど、やっぱり遥樹くんがいちばん好きです! (2019年3月11日 10時) (レス) id: 7ac5223945 (このIDを非表示/違反報告)
松野かほ(プロフ) - 遥樹くんの読み方を今初めて知った← (2019年2月13日 15時) (レス) id: 45fd1e6358 (このIDを非表示/違反報告)
みお - この小説好きです!正直言うと新一より遥樹くんの方が好きだったのでくっついて欲しかったなぁって思ってます() (2018年6月8日 19時) (レス) id: 0646f7c2e0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:みやの | 作成日時:2018年3月1日 22時