いかないで ページ3
「おれ、あいつのこと、守らなきゃ……」
小さい声で、新一がぼそっともらした。
「え?」
「……」
「……新一?」
「あ、もちろん、Aのことも守るからな」
「……うん……ありがとう……」
今までの新一とは、決定的に何かが違くて、不思議に思った。
新一の心が、確かに私から離れつつあるのに、4歳の私は気づいた。
翌日。
保育園に行ったら、江舟先生が辞めたということを知らされた。
事情を知らない園児は悲しがってたけど、私は別に悲しくもなんともなくて、みんなが泣いている姿を、冷めた目で見つめてた。
園子ちゃんも涙目で、怖い目にあった蘭ちゃんも、泣きそうだった。
「あのさ……泣きたい時は泣いていいと思うぞ……」
新一が蘭ちゃんに、声をかけた。
「……新一くん?」
「もう泣き虫だなんて言わないからさ……」
新一のその言葉に、声を上げて泣き始めた蘭ちゃん。新一の肩にもたれてる。
やだ。
さわらないで。
わたしの、しんいちくんに。
咄嗟に頭に浮かんだ言葉に、私は戸惑った。
友達のはずなのに、蘭ちゃんに怒りがわいた。
激しい嫉妬心。
なんだか泣きたくなって、じわあっと涙が溢れてきた。
「うう……」
「……A?どうした?」
「……やだ……」
「やだ?なにが?」
「やだ、やだぁ」
「A?」
「いかないで……」
「……」
新一は、私が江舟先生がいなくなったことに泣いてると思って、ポンポンと私の頭に手を乗せた。
「大丈夫だよ、おれがいる」
「いないよ……」
「え?」
「どこに、いったの……」
「……A」
私のものだった、新一くん。
A、Aって、私の名前を呼んで、だいすき!って言ってくれた、新一くん。
どこにいったのよ。
数日後、思い切って聞いてみた。
「ねえ新一くん」
「なんだ?」
「新一くんは、蘭ちゃんのことが好きなの?」
「……ハッ?」
「好きなの?」
「ば、バーロ!んなわけねーだろ!」
「……そっか……」
新一の赤い顔が、『新一は蘭ちゃんが好き』ということを、私に訴えてきた。
一緒に本を読むことが少なくなった。
ぎゅっと抱きしめられることも、なくなった。
新一は、蘭ちゃんと遊ぶことが多くなって。
私の心は、荒く削られていった。
ここにいる新一くんは、だれ?
蘭ちゃんばっかりを見る新一くん。
どうして変わっちゃったの?
幼すぎた私は、新一が私から離れていくという現実に、ただ恐怖を感じていた。
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極・吹雪姫 - ちょっとびっくりしたのが、弟の瑞紀(みずき)と私の「ミズキ」が被ったことだわね。 (2019年5月2日 20時) (レス) id: c4455a25af (このIDを非表示/違反報告)
極・吹雪姫 - ごめんなさい、本当に途中で泣きそうになったわ。「泣く」ですわ。泣いたページ。 (2019年5月2日 20時) (レス) id: c4455a25af (このIDを非表示/違反報告)
紅葉(プロフ) - こいつらまだ小学生だった…!なんつー濃い恋愛を…!この小説すごく好きです!遥樹くんのちょっとした嫉妬がこぼれて、それを見てとても切なくなる。ヒロインの気持ちはよく理解できるけど、やっぱり遥樹くんがいちばん好きです! (2019年3月11日 10時) (レス) id: 7ac5223945 (このIDを非表示/違反報告)
松野かほ(プロフ) - 遥樹くんの読み方を今初めて知った← (2019年2月13日 15時) (レス) id: 45fd1e6358 (このIDを非表示/違反報告)
みお - この小説好きです!正直言うと新一より遥樹くんの方が好きだったのでくっついて欲しかったなぁって思ってます() (2018年6月8日 19時) (レス) id: 0646f7c2e0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:みやの | 作成日時:2018年3月1日 22時