第90訓 歩狩汗と書いてポカリスウェットって読ませるの本当に天才 ページ44
「Aさんあーん」
次の日きたのは灰元ではなく若瀬だった。
少し頬にかすり傷がある。
概ね何が楽しいかわからないこの食事タイムのために揉めたのだろう。
「なんで、あんたまでそんな嬉しそうなわけ」
自分で食べれる、という言葉はここ三日間お粥と一緒に飲み込んでいる。
「2人の妹が風邪引くたびに良くこうやってたなぁと思いまして」
「真選組ってシスコンしかいないのか」
揃いも揃って嬉しそうな顔をしてる不気味な集団だが、今日も灰元のお粥は美味しい。
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「A、Aっ」
意外とすぐ治るんじゃないか、なんて甘い考えを挫かれたのは5日目の夜だった。
総悟の声に揺り起こされて目を開けるとそこは廊下だった。
「な、んで」
「こっちのセリフでィ。厠なら起こせって」
行って帰ってくる間に倒れてたのか…
総悟は珍しく慌てたらしい飛び起きたのがはだけた寝巻きでわかる。
抱き起こされて布団に戻れたけど、汗はどうにも気持ち悪いし、体の関節は悲鳴をあげている。
「そ、うご…ねて。ぐあい、わるくなるよ」
「お前に言われたかねーよ」
祈る様に私の右手を包み込むその顔は、眉間に皺が寄って総悟らしくない。
もしかして、私死ぬ?ってくらい体調が悪い。
「40.1……」
ピピっとなった体温計を見て、総悟の眉間はさらに寄った。
山崎の部屋のドアを蹴破る勢いで叩き起こし、私はあれよあれよという間に車に乗せられてた。
「大丈夫、すぐつく」
後部座席で、私の肩を抱きながら何度もそう言う総悟は自分に言い聞かせてる様にも聞こえた。
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夜間診療の病院には本当にすぐ着いた。焦った山崎が法定速度を守ってたかは定かでは無いけど。
「あー、タチの悪いのに罹ってるね。入院しましょうか」
「えっ」
「この調子でちゃんと休めば1週間くらいで治ると思うよ」
私の異国ウイルス騒動は入院という大ごとにまで発展してしまった。
朝方、バタバタと面会時間になだれ込んできた男達は死に目に会いにきたのかってくらい悲惨な顔をしていた。
「今、言うことじゃないかもしれないが時間がない。悪いが、江戸は切迫した状況だ。俺たちは三日後京都を立つ。お前はしっかり治してからここを出ろ。これは副長命令だ」
なんとなくそんな気がしていた。
1番隊が帰ってきて以降新しく出張に出た隊はない。
準備が整ったと言うことだ。
嫌だけど、嫌だと言ってもどうしようも無い。今江戸で第二の兄とも慕うあの人が窮地にいるのだから。
「わかった。きをつけてね」
困らせない様に返事をしたのに兄の顔はあまり晴れなかった。
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作者名:愛総 | 作者ホームページ:https://twitter.com/iso_0708/status/1468333379636834307?s=21
作成日時:2021年8月27日 20時