第80訓 この世の善悪は多数決で決まる ページ34
「兄ちゃん、深尾に稽古つけてあげてるんだって?」
1番隊久々の討ち入りの日、新しい隊服に身を包んだAは兄と最終打ち合わせをしていた。
「あー、流れでな」
「ふーん。まぁ、いいや。じゃ終わったら報告しにくるね」
相手は裏組織、夜にアジトに集まるためこちらの出番も夜。
各々新しい下げ紐と隊服に満足してるらしい。
Aが沖田にだけあげるのを忘れていて慌てて渡す一悶着もあったがそれはもう片付いていた。
それより、
「高木、どうした?具合悪い?」
ムードメーカーとして一言言いそうな場面に珍しく黙り俯く姿にAが気がつく。
「京都に実家があるんですけど……」
「あれ、田舎の商家じゃなかった?」
「京都にも結構あるんですよ田舎。それでじ、つは。今日の組織に兄が関わっていたことがあって」
高木によれば3人いる兄のうち真ん中の兄が美人局に引っかかったことがあり、金銭を強請られたらしい。
「じゃあ被害者じゃん。ちゃんと仇打たないとね」
「それが、多分今もそれをネタに金銭的援助を……あいつらが捕まったら俺の家もどうなるか」
つまり、脅される立場であるが取引結果だけ見れば協力関係と判断され、大元から芋づる式に摘発されるであろう関係者の中に両親、ひいては兄も入ってしまう可能性があるということだ。
「なるほどねぇ、で、あんたはどうしたい?」
驚いて顔を上げると、Aが月明かりに照らされて怖いくらい優しい笑顔を浮かべていた。
天使にも悪魔にも見える囁き。
「殺したい?証拠を揉み消したい?いいんだよ。ここにいる皆の同意があればそれが正義になる」
沖田はこのAの発言に特段驚くこともなかった。
昔から緩やかに狂っている所を知っている。
達観した善悪観は一歩間違えればどの道に行ったことやら。
「だって、今まで色々な大義を持って人を斬ってきたでしょ。なのに何故、大義もある今回、少し私怨が混ざると迷いに変わるの?」
18歳の無垢な問いにその場の全員の倫理観が揺さぶられる。
「どうしてお姫様を傷つけた悪者は王子様に殺されちゃうんだと思う?王子が正義だから?違うよ、王子が主人公で、それが大衆の意見だから」
悪役側から見れば王子だって敵に変わりはない、正当化できる殺しなどないのだ。
だから自分を正義だと思うな。
「それによく言うじゃん?"勝てば官軍負ければ賊軍"って」
この歪な集会も、理論は真っ当で少なくともAよりも大人な男達でも言い返す言葉が見つからなかった。
そして高木が意を決したように返事をする。
第81訓 歩きたくなさすぎてパトカーで送ってくれって思ったことあるよね→←第79訓 バラガキの道も一歩から
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作者名:愛総 | 作者ホームページ:https://twitter.com/iso_0708/status/1468333379636834307?s=21
作成日時:2021年8月27日 20時