第52訓 空の青さを知るカエラヌヒト ページ4
ある晴れた冬の日。
空はどこまでも青く青く、青い。
こんな日に似つかわしくない青の元。
「兄ちゃん?」
「あ、あぁ」
今年もあと5日というところAは晴れ着を着て兄の顔を覗き込んでいた。
そして土方は兄として、今まで他の年頃の子と同じ様に豪華な着物を着せてやれなかったことを悔いていた。
「こんな豪華な着物着るの初めてだからラッキー」
「似合ってる」
「でしょでしょ」
勤めて明るく振る舞う妹とまだ納得のいっていなそうな兄の他には、青ざめた顔の見慣れた隊士達。
「Aさん、僕たちが昨日聞かされたのも不服ですけどその文句は一旦置いといて。
まさか沖田隊長に内緒にしてるなんて。そろそろ隊長起きてきますよ…そしたらどうなることか」
「おまっ総悟に言ってないのか!?」
「言いづらくて……」
「やっぱりやめろ俺が行く。今からでもとっつぁんに」
「兄ちゃんが行っても仕方ないでしょ」
嗜めるように言いながらAは満面の笑みを浮かべる。
「トシ、その話はもう何度もしただろ。Aちゃんの覚悟は決まったんだ。俺たちが知らない間に。10月の終わりから1人でずっと悩んだはずだ」
「何を?」
ピシャリとその一言で皆の身が固まる。
静かな声だったが確かにそこにいる全員に聞こえた。
玄関の死角から表情の読めない沖田が姿を表す。
「何を悩んで何を決意しやがった?てめぇは勝手に」
抑揚のない口調。ポケットに手を入れたまま沖田は見慣れぬ振袖を着た彼女の前まで近づく。
一触即発の空気に誰も口を開かず見守ることしかできなかった。
覚悟を決めたようにAは息を吸う。
「私、京都のさるお方の元に嫁ぐことになった」
「は?」
沖田がイラつきに任せて手を刀にかける。
Aは晴れ着ゆえに帯刀していない。刀は荷物の中だ。
「決めてたから止めないで」
沖田は何も言わずAのことを睨みつけている。
「総悟と付き合ってたけど、とっつぁんから話が来た時ちっとも迷わなかった。要するにその程度だから。もう帰ってこないし私のこと忘れてね」
Aはそう言い捨てると、くるりと踵を返した。
その顔はAの背後に並んでいた1番隊の隊士達だけには見えた。
「みんな……あとは頼んだよ」
Aの顔と言葉の意味が長く共にしてきた隊士達には伝わったらしい。
「待て」
殺気立って一歩踏み出した沖田とAの間に1番隊が壁となり割り込んだ
第53訓 女は一度捨てた武器を拾う→←第51訓 後悔は先に立たないからこそ後悔
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作者名:愛総 | 作者ホームページ:https://twitter.com/iso_0708/status/1468333379636834307?s=21
作成日時:2021年8月27日 20時