第62訓 捨てる神あれば拾う神あり ページ16
「さいっこうの気分」
証拠とともにまだ開いてない岡っ引きの屯所の前に男を転がして、Aは屋敷に戻った。
いくら身分の高い公家様といえ、倉庫にわずかに残る粉と裏帳簿で証拠は十分だろう。
「あー、兄ちゃん達になんて言おう……騙されてましたなんて言いたくない…暴れたのがバレたら迷惑かけちゃうし」
外もそろそろ明るくなって来ており、警察の調べが入る前にAは荷物をまとめて雪道を出た。
高そうな着物も粗方持ち出して、行きよりも荷物が多い。
「どうしよ…帰りたいけど、これでまたお金も振り出しに」
3ヶ月分は振り込まれてるから一時的な延命はできたにしろ、ここから先の金策はない。
連絡できないままスマホを握りしめ、開店前の団子屋の椅子に腰をかけているとすっかり日が上りチラホラと人の往来が始まった。
「土方A様とお見受けします。御同行願えますか」
3人の大男が俯くAに影を落とす。
「えっ、まさかもうバレて……」
あの男がAの素性をばらせば政府に追われる身として京都での所業が破れるのも覚悟していたが……
こんなに早いとは思わず抵抗するか迷っていると、後ろからピョコリと少女が顔を出した。
「お姉はん。探しましたで。兄上が前の件でお礼したいそうどす」
それは京都に着いたばかりで助けた女の子だった。
「姫!顔をお出しにならないようにと」
「ひ、ひめ??」
「とにかくここでは目立ちますゆえ、御同行を」
お付きの1人がAの大荷物をひょいともち、さぁと急かしてくる。
「はい……」
一先ず政府に追いかけられてるのではないなら、と大人しく車に乗り込んだ。
道中、Aは無計画に男を突き出したことを反省するばかりだった。
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作者名:愛総 | 作者ホームページ:https://twitter.com/iso_0708/status/1468333379636834307?s=21
作成日時:2021年8月27日 20時