第58訓 オウトウナシ ページ12
「Aちゃんは、うちの副隊長は必ずこまめに連絡するって言ってたんだよ」
武州から一緒だった1番隊の秋山と斉藤終は片方が問いかけて片方は携帯のメモで返事するという奇妙な会話をしていた。
「俺だけじゃなくてうちの隊の奴らは、まぁ隊長はあんな別れ方したから連絡なんてできないかもだけど。とにかく他の奴らは返事が返ってこないって大騒ぎだ」
『きな臭いな』
「今すぐ京都に行くとか言い出す奴もいて、副隊長の決意を踏みにじる結果になるからやめろって止めてはいるんだけどさ」
『でも、金は振り込まれたらしい。待つしかない』
ただ、今は振り込まれる金が事がうまくいっている便りだと思い込むしかできなかった。
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Aがいなくなって2週間目には、北側の有力者の元に近藤が赴くことになった。
「金策に焦らないおかげで、局長も大きく動ける。Aさんにも報告できたら良いのに」
隊士達がそう口にしている側で1番隊は日に日に目つきが険しくなっていた。
連絡ができないほど忙しくしてるのか、楽しく過ごしてるか、自分を思い出させない様にという気遣いか。
とにかくプラスの方に考えようと各々が自分に言い聞かせていた頃
「わ!Aさんだ」
「「「え!!!!」」」
くだらない事やら面白かったことやらなんでもポコポコ送りつけていた高木のメッセージにはじめて返信が来た。
「『こっちで結構忙しくしてるから、あんまり連絡できなくてごめんね。楽しくやってるからみんなにも伝えておいて』だそうですよ!」
「なんでてめーなんだよ高木ぃいいいい」
「いでっ、ちょみなさん、やめてくださいよ知らないっすよ。隊長!ちょっと刀っ!刀はしまってください」
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その頃京都では、倉庫の梁からAが逆さ吊りされていた。
公家の屋敷には似つかわしくない謎の空間。
何も保管されておらずAの頭の下に大きな水樽があるだけだが、何やら前までは保管庫として使われていたらしい。床には日焼けの跡が。
「いつもやってるんだろ?犯罪者に。やられる気分はどうかな?みじめだろう」
「ぷはッ」
この違和感は、なんだろう。Aは血が登る頭で考えを巡らせる。
「もしかして、真選組に恨みでも?」
「君たちと無縁な特権階級が恨みなどあるわけないだろ。詮索をするな」
「うっ」
馬鹿にした様な笑いを浮かべた男はAを吊るしていた縄から手を離し、縛られたまま浮上することのできないAは樽の底に沈んでいった。
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作者名:愛総 | 作者ホームページ:https://twitter.com/iso_0708/status/1468333379636834307?s=21
作成日時:2021年8月27日 20時