私達の主役は〇〇だ

No.？？？？ ページ46

幕が降りたあとの舞台を見たことはあるか？


観客は見えず、キャストはいない。

孤独で音のない舞台を。

『・・・』


誰もいない袖へと進む彼女の気持ちを、わかる人間はいない。


が


『お疲れ様』


彼女と同じ背格好の人間が、舞台に現れる。手には花束。


『・・貴方は』


どちらがどちらか分からない。だが、笑顔の差がある。


完璧に笑うのは主役の彼女


無邪気に笑うのは花束の彼女


『やっと会えた。』

『なんの用？』

『会いたかった』

『私は会いたくないけど』

つれない言葉に花束の彼女鈴を転がしたように笑う。

『お疲れ様』

同じ言葉を復唱して、花束を渡す。

『・・ありがとう』

素直に受け取れば、花束は持ち主を変える。

『それじゃあ、今度はあなたが主役なのね』

持った花のようにきれいに笑う彼女。

『さぁ、それは分かんないよ』

何も持っていない彼女は困ったような笑みを返す。

『だけど』

『なに？』

『貴方みたいな美人なら、主役も貼れるかもね』

茶化すように笑う。

『あら、ありがとう』

ゆっくりと後退する。

『なら、頑張るのよ』

舞台袖の暗闇は花束の彼女に手招きをする

『ありがとう、私』

『・・こっちのセリフよ。』

触れられない彼女を愛おしむように手を伸ばす。

『ありがとう。こっちに来てくれて。助けてくれて、慈しんでくれて。』

その手すら、闇に飲まれて消えていく。








『あんな美女に頑張れって言われちまったよ』

ニヤニヤと自分でも分かるくらい気持ち悪く笑ってる。

『んふふー、じゃ、がんばりますか！』

幕を自分で開ける。まだ舞台のハウツー何一つ理解してないけど


『主役交代だ。今度は私が、好き勝手してやる！』






だからみんな、もう少し席にいてね。
美女のお願いなんだから、聞いてくれるよなぁ？

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