揺れる気持ち〈うみげん〉 (ページ1)

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カウンターに腰掛けてひとりでグラスに口を付ける

金曜日、1週間の仕事終わりにここのバーへ来るのがいつしか日課となっていた

今日もいつも通り、マスターが入れてくれたカクテルを飲む

少し酔いもまわってきた頃

「ねえ、お姉さんひとり？」

柔らかな黒髪から覗く綺麗な顔立ちの男の子が首をこてんと傾けてこちらを見ていた

ここのバーではたまにこうやって声を掛けてくる若い男がいる

生憎今の私はひとりで飲みたい気分

そっとしておいてほしい

無言を貫いていると

「ねえ、無視？俺泣いちゃうよ？？」

カウンターに肩肘をつきながら私の顔を覗き込んでくる

グラスを持ちながら目線だけちらりと声の主の顔を見やる

「やっと目、合った」

そう言ってにっこりと笑う

「申し訳ないけどひとりで飲みたい気分なの」

そう言って私は席を立ち、レジへと向かった

すると何故かその男も付いてくる

「ちょっと付いてこないで」

「えーいいじゃん」

私はその言葉を無視しながらカバンを探る

あれ………？

私は焦った

いくら探しても財布が見当たらないのだ

カバンを開きもう一度しっかり探す

しかしやはり見当たらない

今から家に帰ってもお店に戻る電車もないし

私は思考を巡らせたがお酒のせいか上手く頭が回らない

「これで」

その声の方を見ると男が店員にカードを渡していた

「おねーさん、これで俺に貸しできたね！」

満足そうにニッと笑う

これが彼との始まりだった