【歌い手】期待して損した。

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一斉に、皆の視線がこっちに集まったのが分かった。

掛ける言葉が見つからない。私には思いを伝えるような、そんな語彙力はないから。

それでも何か、謝罪と言葉を述べなくてはならない。私のこの衝動的な行動が後に悪い方向へと進むきっかけになったとしても、私は何もできないからだ。



96「……何も言わへんで。なにも、言わなくていいから」



最初に口を開いたのは意外にもくろちゃんであった。

慌てて作ったような下手な笑顔で、私をどうにか安心させようと微笑んだ彼女に、なにも言えなくて拳をきつく握った。不安定な心を押し潰すように強く、肌に爪を食い込ませる。

痛いのは、みんな一緒だ。



『……勝手な行動をとって、すみませんでした。』



精神の痛みは、場合によっては物理的な痛みも超える。

私には、何ができる？



『今回の事は、予想していたよりも深刻でした。今日の事で、入居者さんを刺激してしまって、行動を起こされた場合は、私が責任を持って"全て"を終わらせます……ごめんね』



抉りだされた今までのトラウマ、他人への疑心暗鬼。

抱えているものが通常よりも多い私達には辛すぎる事態だ。再び現れた人との間に立ちはだかる壁は、想像していたよりも大きくなっていたらしい。

私の心も、搔き乱されている。



まふ「待ってA……A、全てって、どういう事……？ねぇ全てってなに……！！」



私の提示した『全て』という言葉に疑問を持ったらしい彼は、顔を歪めながらそう言った。

彼の綺麗な顔が崩れていく。並べられたような綺麗な顔が悲痛な思いに駆られて哀で染まっていくのは、心にくるものがあった。

でも、それでも、私にできる事と言ったら……



『……そのままの意味だよ。私には、行動を無垢に起こしてしまった責任がある』



そら「いや、皆に相談もしなかった俺にも非がある。A一人が抱え込む問題じゃないでしょ」



うら「そうだろ。なんでお前一人が抱え込むんだよ。今回の事だって俺達で協力すれば……」



『違う。今回の事は、全てが私のせいで起こった事です。そう暗示してください。……そうすれば、皆離れ離れにならずに済むから』



例え私が欠けたとしても皆なら、沢山の苦労を受けてきた彼らなら、きっと大丈夫だから。

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