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『……世の中って、なんでこんなに上手くいかないんだろ……努力しても、結局は上手くいかないことの方が多いなんてさ、不公平だよね』



唐突に口からこぼれた言葉に、彼女は一瞬こちらを驚いたような目で見てから視線を再び床に戻して「そうだね……」と小さく零した。

いつもの活気はなく、少し疲れたような表情をしてただ一点を見つめる彼女に、再び何か声を掛けようと口を開いたときだった。小さく、微かにだが、インターホンの音が聞こえたのは。

彼女もインターホンに気づいたようで肩をびくりと揺らした。

とうとう、約束の時間になってしまったようだ。だが、打ち合わせ通りドアを開くような音は一切聞こえない。居留守を使うのは、やはり正解だったみたい。



96「A……このままじゃ私、可笑しくなりそうや……なんも、まともな考えができん……」



『え、くろちゃん……大丈夫……?!』



96「こんな怖い思いはもう嫌……楽に、なりたい……また、あの時と同じになるのは嫌や……」



あの時……

くろちゃんが、リスナーに襲われて、身体に一生残るような傷痕をつけられてしまったあの、思い出したくもない事件。

彼女の意向で表向きには出なかった事件だけど、私の記憶にもそれはよく残っている。

今は癒えた傷が、また抉られてるんだ。



『っ……なんッでだよ……!!』



96「……ぇ、A……?」



未だに連打されるインターホンに、私はもう我慢ができなかった。

階段を下りてリビングを通り過ぎ、真っ先に玄関の前に向かう。

この際、口調とか、もうどうでもいい。



『早く帰って……ここはあなたの居場所じゃない!!私達の居場所だ!!』



玄関のドアは開けずに、扉の前で叫んだ。聞こえているだろうか?

後ろから背中に視線を感じるけれど、何も言ってこないあたり皆も私を止める気はないのだろう。……いや、最早気力もないのかもしれない。

裁判を起こしてでもいいから、私はこの空間、みんなと過ごしたこの歌い手ハウスを失いたくなかった。

大切な思い出を、他人なんかに穢されたくはなかった。

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すだち - 凄く好きです!! (2019年4月17日 22時) (レス) id: 396e5bf3b0 (このIDを非表示/違反報告)
liar(プロフ) - 二度めのコメント失礼します。「そのために一緒に繰らしてるんでしょ」というページ43の文ですが、暮らすではないでしょうか。何度もすみません。面白い作品なので。コメント失礼しました。 (2019年3月29日 19時) (レス) id: 1ccf5e95e0 (このIDを非表示/違反報告)
しらす - 髪の毛ぐしゃぐしゃにするさかたん可愛い。「嫌いじゃないよ」って言われたとたん笑顔になってご飯食べるさかたんも可愛い。結論:どっちの作者も神 (2019年3月26日 8時) (レス) id: f34e486c2f (このIDを非表示/違反報告)
starlily☆(プロフ) - liarさん» liarさん、教えて頂きありがとうございます。すぐに直してきました。 (2019年3月24日 16時) (レス) id: f931f235d1 (このIDを非表示/違反報告)
liar(プロフ) - コメント失礼します。とても面白く読ませていただいていますが、ページ41の「福用していることを」の文ですが、「福用」ではなく「服用」ではないでしょうか。 (2019年3月24日 16時) (レス) id: 1ccf5e95e0 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:シュリンク&starlily x他1人 | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2018年11月22日 17時

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