Ep.0「記憶」 ページ3
……どうやら私には、他の人には見えないものが見えているらしい。
そう気づいたのは、四歳くらいの頃だったと思う。
虚空を見つめて見えないはずの化け物を「怖い」と泣き喚く私は、お母さんにもお父さんにも、はてには幼稚園の先生にも大迷惑をかけたし、友達だって上手く作ることができなかった。
みんなが口を揃えて見えないと言うものが自分には見えている。お母さんが心配しているのもわかって、子供心に自分が異常なんじゃないかと怖くなったのを覚えている。
家の外に出たくないと思ったことなんて、両手両足を使ったって数えきれない。それでもわたしが、今日日呪術師としてタフにこの世界を生き抜いているのは、ひとえに幼馴染みの男の子―――陣平くんの、おかげに違いない。
何件か先の家に住んでいた彼は「A!遊びに行こーぜ!」と引きこもりに片足突っ込んでいた私を、度々外に連れ出してくれていた。
「待って、待ってってばっ…陣平くん……!」
「どうしたんだよ」
「だって!……い、いるんだもん……」
すぐ目の前にある公園の入り口には、相変わらず不気味な異形の化け物がいた。
その場で凍りついたみたいに足をピタリと止めてしまったわたしを、陣平くんは眉を
俯いて「うぅぅ……」と呻いているだけの私を見かねたのか、陣平くんはポリポリと頭をかくと「ったく、しゃーねーな」とつぶやいて私の手を引いてくれたんだ。
ぶっきらぼうな言葉とは裏腹に、その手はとても優しくて
「ほら、目ぇつぶっとけ」
「で、でも………!」
「見えなきゃいねぇのと同じだろ」
握りしめた手は温かくて、後ろ姿は頼もしかった。繋がっている手の温もりだけを頼りに、ぎゅっと私は目を閉じる。
彼がいたから、外の世界を知ることができた。いつも私を守ってくれた、温かい手のひらのおかげだった。どうすればいいのか、全くわからない暗闇の中で、私と一緒に前に進んでくれた。
「陣平くん、お、置いてかないでね!」
「置いてかねーよ」
「ぜっ、絶対に手、離さないでね……!」
「ったりめーだ」
「だから、そんな怖がんじゃねーよ」
より一層力を込めて握った手を、陣平くんがぎゅっと握り返してくれて―――私の初恋は、当然とでも言うかのように、彼に颯爽と奪われていったのだ。
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やなり(プロフ) - jenniferwu3429さん» 原作は辛すぎますよね……。 (8月13日 18時) (レス) id: 38128c49d7 (このIDを非表示/違反報告)
jenniferwu3429(プロフ) - この作品を読む度に禅院姉妹のことを思い出すな (7月13日 3時) (レス) @page4 id: 426e07a7b9 (このIDを非表示/違反報告)
やなり(プロフ) - RIOさん» お返事遅くなってしまいすみません!コメントありがとうございます!こうしてコメントを、いただくと筆が乗ってしまう単純なわたし……(^-^; 少しづつにはなりますが更新していくので、お付き合いいただけるとうれしいですm(_ _)m (2022年5月28日 9時) (レス) id: 38128c49d7 (このIDを非表示/違反報告)
RIO - 早く続き読みたいです! (2022年5月24日 6時) (レス) @page11 id: 759836d8d0 (このIDを非表示/違反報告)
やなり(プロフ) - sou様、こ、光栄なお言葉をありがとうございます……!あらかじめ書き溜めた分はコツコツ更新していこうと思っています。完結まで私の妄想に付き合っていただけるとうれしいです(*´꒳`*)。ご期待に添えるように頑張りますね!! (2022年5月22日 9時) (レス) id: 38128c49d7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:やなり | 作成日時:2022年5月21日 16時