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陌貳拾 ページ27

雷が落ちたような、轟音が響き渡った。


大きく踏み込み、次の瞬間刃は奴の頸を過ろうとしていた。


慌てて後退し、繰り出された技も関係ない。このまま一撃を、


「え、」


にやり、と奴は口角を上げた。


突如として襲われた浮遊感に目を剥く。


地面が、ない。


何も出来ぬまま、落下する。


落ちながら考える。幻術系の血鬼術を使う鬼が協力していたのか。つまり奴は初めからこうするつもりだった。


下は滝壺だ。通りで異様に水の音が近かった訳だ。けれどもこの高さなら問題ない、


「俺の勝ちですね、先輩。」


いや違う。奴は呼吸の特徴を受け継いで、雷を纏った技を使う。


水の中で雷はどうなる?(・・・・・・・・・・・)


不味い、このままでは負ける。考えろ、私が今出来る事を考えろ。


今私が技を繰り出しても、攻撃される事を見越して少し離れている奴には届かない。頸は斬れない。それなら、


迫り来る水を前に、覚悟を決めた。


水の中に落ちる。目の前を通り過ぎていく泡の間に、勝利を確信し笑顔を浮かべる奴の姿が見えた。


全集中・雷の呼吸 肆ノ型 遠雷


次の瞬間、何倍にも威力を増した電撃が身体を襲う。


意識が飛びそうになる。取り込んだ酸素が口から漏れ、刀を手放してしまいそうだ。


けれども、


『水になれ、A。今のお前なら、例えどんな場所であろうとも、誰よりも自在に舞う事が出来る。』


鱗滝さん、


『お前が乗り越えた地獄の鍛練は、必ず報われる。』


これで、仕留めます。


全解放・暉の呼吸 罔象ノ舞・飛瀑(ひばく)


全力で刀を振るえば、その圧力から生まれた勢いは鋭い水刃となって一直線に奴に向かう。


その水刃が奴に届くのを見届ける前に、急いで水面まで上がった。


「がっ、がはっ、はぁ、はぁ。」


大きく咳き込みながら岸まで泳ぐ。今は此処から抜け出す事しか考えられない。


漸く辿り着いた地面に上がり、後ろを振り返る。其処に奴の姿はない。


仕留め損なった。けれども私が岸に辿り着くまでに妨害されなかったのは、奴は少なからず私の攻撃を食らったのだろう。


つまり奴はまだ水の中にいる。


水を多く吸った隊服を絞りながら、考える。


このまま奴が水中から出てくるのを待つのは得策ではない。それに、


愛弟子の仇と、里の人々の命。どちらが重いかなんて決まっている。


自分の思いをぎゅっと抑え込んで、背を向け 里に向かって走り始めた。

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酸漿(プロフ) - きなこ餅さん» 有り難う御座います。これから続編を書いていくので、そちらの方も是非お楽しみください。 (2019年10月20日 21時) (レス) id: 511b02f073 (このIDを非表示/違反報告)
きなこ餅 - たくさん伏線がはられていて、読む度にドキドキします! これからも更新頑張って下さい! (2019年10月19日 21時) (レス) id: 3d1d19266b (このIDを非表示/違反報告)
酸漿(プロフ) - 神桜佳音さん» 嬉しいコメントありがとうございます(^-^)励みになります。これからもどうか宜しくお願いします。 (2019年10月13日 19時) (レス) id: 511b02f073 (このIDを非表示/違反報告)
神桜佳音(プロフ) - ようやく納得しました…!話が深い…。辛い。けど、すごい好きです!無理されないで更新されてください!続き待ってます! (2019年10月10日 19時) (レス) id: 78c574c661 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:酸漿 | 作成日時:2019年9月21日 18時

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