陌捌 ページ15
今日は一段と霧が濃い。
見通しの悪い山道を走り続けること三十分程で目的地に到着する。
小さな石が規則正しく並んでいる、不思議な場所。各々に小さな狐の面がかけてあり、その前には花や水、菓子等が置かれていた。
これは鱗滝さんが作った、彼等の墓だ。
その一つ一つを丁寧に磨き、新しく持ってきた各々違うお供え物を置いていく。それは生前彼等が好きだったものだ。
そして手を合わせ、その一つ一つに祈りを捧げる。
その度に、その墓の主が此方に寄ってきて、ある者は感謝を述べ、ある者は嬉しそうに声を上げる。けれどもそれは義勇には届かない。
最後の墓だ。傷が描かれた狐の面が飾られている。
確認するまでもない、これは錆兎のものだ。手を合わせ、二人で目を閉じる。
その時、微かに空気が揺らいだ。
薄く目を開けて、後ろを確認する。間違いない、錆兎だ。ごくりと唾を呑み込む。
ゆっくりと、義勇に向かって手が伸ばされる。
「義勇。」
けれども、その声が彼に届く事はなかった。
諦めたように 伸ばされた手はだらんと力無く垂れ下がる。
…駄目か。
今錆兎の表情を見るのはあまりにも申し訳なく感じて、そのまま目を閉じた。
錆兎、焚き付けておいて本当にごめん。けれども、
ん…?
何か地面に何かを叩き付けるような音がする。もう一度うっすらと目を開けて、そして噴き出しそうになった。
錆兎は、苛立っているかのように義勇の背中を蹴っていた。けれども振り下ろされる足は彼を透けて、結果的に足が振り下ろされていたのだ。
いや、こんな音が出るなんて何れだけ強い力で蹴ろうとしているの。
ぷるぷると肩を震わせぬがら、笑ってしまいそうになるのを必死に堪える。
やがて暫く経つと錆兎は諦めたのか、音が止まった。
そして、何処か寂しそうな、けれども安心したような笑みを浮かべる。
思わず息を呑みそうになるのを堪えて、彼を静かに見守った。
錆兎はゆっくりと義勇の横に移動し、しゃがみこんで彼の耳元で何かを囁く。
次の瞬間、カッと義勇の目が開かれた。
「……錆兎?」
不思議そうに彼は辺りを見渡す。だが其処に彼の姿は勿論ない。いや、ある訳がない。
ただ、私は 錆兎が消える直前に、うっすらと笑みを浮かべていたことを見逃さなかった。
…良かったね、錆兎。何か伝える事が出来たんだね。
何処かで笑う宍色の小狐に、思いを馳せ笑みを溢した。
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酸漿(プロフ) - きなこ餅さん» 有り難う御座います。これから続編を書いていくので、そちらの方も是非お楽しみください。 (2019年10月20日 21時) (レス) id: 511b02f073 (このIDを非表示/違反報告)
きなこ餅 - たくさん伏線がはられていて、読む度にドキドキします! これからも更新頑張って下さい! (2019年10月19日 21時) (レス) id: 3d1d19266b (このIDを非表示/違反報告)
酸漿(プロフ) - 神桜佳音さん» 嬉しいコメントありがとうございます(^-^)励みになります。これからもどうか宜しくお願いします。 (2019年10月13日 19時) (レス) id: 511b02f073 (このIDを非表示/違反報告)
神桜佳音(プロフ) - ようやく納得しました…!話が深い…。辛い。けど、すごい好きです!無理されないで更新されてください!続き待ってます! (2019年10月10日 19時) (レス) id: 78c574c661 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:酸漿 | 作成日時:2019年9月21日 18時