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貳拾漆 ページ29

「え、」


伸ばした手は、届くこと無く。


ただ呆然と、見ている事しか出来なかった。





ばきばきと何かが裂ける音、瞬間噴き出す血は雪を真っ赤に染め上げてゆく。


口から飛び出した大きな手は、頭を握り潰す。そして全身から生え出した数多の手は、肉を裂き骨を砕いていく。


血が、頬に飛んだ。


震える手でそれをなぞれば、ぐちょりとした感触。


母は、原形を止めぬ程破壊されていく。私は、見ているだけで何も出来ない。


「あっ、あぁ」


声にならない声が、唇から漏れ出す。


…私は、


「あ"ああああああぁぁ!」


_____無力だ。


耐えられず、遂に発狂した。









母が着ていた着物だけが其処にあった。


周囲は雪が赤く染まり、でも母の姿は何処にもない。


「……まさか、自ら死を選ぶとは。」


男が、隣で呟く。


言い返す気にもなれなかった。


だが男はそれ以上何も言わず、此処を立ち去ろうとする。


「待て!」


涙を拭い、その背中に向かって叫ぶ。


「絶対にお前達を、赦さない!」


男はくるりと振り返り、表情を変えずに言った。


「……藤の花を体内に吸収しているからと言って油断はしないほうが良いぞ。……“儀”を終えたら、お前を迎えに来よう。」


「誰が鬼に、」


「お前を数年閉じ込めて管理しておけば、毒も抜けきるだろう。その時がお前の人間としての最後だ。」


「ひっ、」


考えもしていなかった。身の毛が弥立ち、思わず悲鳴を上げる。だが、引き下がる訳にはいかない。


「私が大人しく“鬼”になると思うなよ! 次に会った時がお前の最期だ!」


肩で荒く息をしながら、男を睨み付けた。


「……そうか。」


男は、笑ったような気がした。


「それなら、お前が私を斬りに来るまでは待つとしよう。」


次の瞬間、男は消えた。


緊張が解けたからか一気に力が抜け、膝からその場に崩れ落ちる。


体が鉛のように重い。だが母が元居た場所へ必死に這う。


そして、その着物を握りしめた。


「お母さん…。」


頭に浮かぶは最期の言葉。


体を内側から破壊される苦痛は、想像を絶するものだっただろう。それでも、貴方は。


ねぇ、どうして、




“ あ り が と う ”




「貴方はどうして微笑んでいられたの?」


その問いかけに、答えてくれる者はいない。


寒い北の大地に、一人の少女の嗚咽が響いていた。

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mikki-(プロフ) - 酸漿さん» ひぇ……お友達さん絵が上手すぎやしませんか????貴方の作品もお友達さんの絵も好きです応援してます!! (2019年7月29日 19時) (レス) id: df35f93799 (このIDを非表示/違反報告)
酸漿(プロフ) - mikki-さん» 友達が書いてくれたものです。登場人物紹介に載せているのは、角&耳っこメーカー様からお借りしたものです。紛らわしくてすみません。 (2019年7月29日 19時) (レス) id: 511b02f073 (このIDを非表示/違反報告)
mikki-(プロフ) - 初めまして。質問なのですが、表紙のイラストは酸漿様が描いたものなのですか?教えて下さい (2019年7月29日 18時) (レス) id: df35f93799 (このIDを非表示/違反報告)
酸漿(プロフ) - 金糸雀さん» その通りです。夢主の母を鬼にしたのも彼です。彼は自ら会いに来るまでは待つ、という約束を律儀に守っています。 (2019年7月7日 20時) (レス) id: 511b02f073 (このIDを非表示/違反報告)
金糸雀 - まさか、過去の話に出てきて鬼は上弦・壱ですか? (2019年7月7日 1時) (レス) id: 359e27b0ea (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:酸漿 | 作成日時:2019年6月16日 19時

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