貳拾肆 ページ26
三日間の舞いが無事に終わり、母に特製の熊鍋を味わって貰った後、二人で山を下りた。
その時聞かなかった事を、一生後悔することになるとは、思いもしていなかった。
それから数日後の夜の事だった。
母は突然山の様子を見てくると言い、私は先に寝るようにとだけ伝えて出ていった。
直ぐに戻って来るだろう。そう思ってその夜は何の心配もする事なく眠った。
それから二日が経った。母は、帰ってこなかった。
朝、家を飛び出す。その日は雪が降っていて、太陽は厚い雲に覆われていた。
山を知り尽くした母が遭難するわけない。何かがあったに違いない。刀を差したまま、心当たりのある場所をしらみ潰しに当たるが見付からない。
やがて日が暮れそうな時間帯になった。これ以上は私も危ない。夜の山の怖さを、知っているから。
引き返そうとしたその時、微かに呻き声が聞こえた。
「…お母さん?」
嫌な予感に汗が止まらない。心臓が早鐘を打ち、行っては駄目だと体全体が警鐘をならしている。
でもどうしても確かめない訳にはいかなかった。
暫く歩くと、其処から少し先にあった湖畔に、母は倒れていた。
「お母さん!!」
駆け出そうとしたその時、足が止まった。いや、正確には止まらざるを得なかった。
「……何者だ?」
男が、母の側に立っていた。
その男は目が六つあり、明らかに人間では無い。
“鬼”だ。
母が語っていた、人の血肉を喰らう、化け物だ。
でも此処で引き返す訳にはいかない。遠目でも母は怪我をしているのが分かった。周囲の雪が、血に染まっていたから。
「その人は私の母親だ! お前こそ何者だ!」
男は黙り、次の瞬間目の前にいた。
「え、」
何かが風を切り裂く音、見えなくとも分かる。刀が、首に振り下ろされる。
「ぐっ、!」
体を捻って避ける。そのまま後方転回して男の顎に一撃を加えた後、その場を飛び退いた。
「ほぅ。…あの女の娘だけはあるな。」
今確信した。この男は、敵だ。母を傷付けたのもこの男で間違いないだろう。
「どんな事情があるのかは知らないが、母を返して貰おう!」
切っ先を男に向けて、睨む。
視界の端で、母の体がピクリと動いた。
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mikki-(プロフ) - 酸漿さん» ひぇ……お友達さん絵が上手すぎやしませんか????貴方の作品もお友達さんの絵も好きです応援してます!! (2019年7月29日 19時) (レス) id: df35f93799 (このIDを非表示/違反報告)
酸漿(プロフ) - mikki-さん» 友達が書いてくれたものです。登場人物紹介に載せているのは、角&耳っこメーカー様からお借りしたものです。紛らわしくてすみません。 (2019年7月29日 19時) (レス) id: 511b02f073 (このIDを非表示/違反報告)
mikki-(プロフ) - 初めまして。質問なのですが、表紙のイラストは酸漿様が描いたものなのですか?教えて下さい (2019年7月29日 18時) (レス) id: df35f93799 (このIDを非表示/違反報告)
酸漿(プロフ) - 金糸雀さん» その通りです。夢主の母を鬼にしたのも彼です。彼は自ら会いに来るまでは待つ、という約束を律儀に守っています。 (2019年7月7日 20時) (レス) id: 511b02f073 (このIDを非表示/違反報告)
金糸雀 - まさか、過去の話に出てきて鬼は上弦・壱ですか? (2019年7月7日 1時) (レス) id: 359e27b0ea (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:酸漿 | 作成日時:2019年6月16日 19時